【番外編】バカンス(6)
この世界で初めて泳いだ。
しかも海で!
泳ぐ前にもう一つの初めてもあった!
それは海の中での……。
これはもうとんでもない解放感がある営みになった。
だってどれだけ声を上げようと。
普段では恥ずかしくて出来ないことも。
あの果てのない美しく澄んだ海の中なら……。
問題ない!
何だって出来た。
めくるめくような時間を過ごした後は、ビッグなサプライズが待っていたのだ。
それは日没前の絶景!
まさに水平線に沈む夕陽は、自然の織りなす雄大なショーだった。
「ヴァルド、これまでに見た夕陽で一番壮大かもしれません」
「そうだな。これはフロストにも見せてあげたかったな」
「フロストならきっと、成長したら自身の力でここに来る……そんな気がします」
私の言葉を聞いたヴァルドはその真意を問う。
「フロストはヴァルドに似て聡明です。そして勘がいい。今回の旅行はフロスト中心に過ごしていました。それを分かっているからフロストは……私とヴァルドが二人になれる時間をくれた気がするんです」
「それはスノー・スリープ・デイの時と同じだと?」
「はい。宝物があってもなくても、フロストは気にしないと思います。ヴァルドと私が二人きりの時間を過ごし、かけがえのない思い出を作れたら嬉しい……そう思ってくれている気がします」
私の言葉を聞くと、ヴァルドはそっと肩を抱き寄せる。
「フロストの優しさはミア譲りだな。きっとそうなのだろう。フロストはわたし以上の魔力を持っている。偉大な皇帝となり、歴代最高の魔術を使えるようになるだろう。初代皇帝を凌駕するぐらい。そうなったらこの場所も。いとも簡単に来ることができるだろう」
そこでヴァルドは頰に優しくキスをする。
「この桁違いのスケールの夕陽は、最愛と見るべきだ。なぜならこの後……」
そう、この後は、夕食前のランデブータイム。
今日は時間をあけては、ヴァルドと肌を重ねてしまう。
それはまるでハネムーンを過ごしているようだ。
なし崩しで皇太子妃になってしまい、結婚式もまだなので、新婚旅行なんてないわけで。
そもそもこの世界に、その概念があるのかしら?
「ミア。これまで手加減していたが、どうやら余裕があるようだな」
「!」
「この後は食事をして休むだけだ。念の為にポーションは各種用意してある。わたしに集中しろ、ミア」
この後のヴァルドはまさに有言実行!
私の頭の中は、ヴァルドしか考えられない状態になる。
そして。
あまりの気持ちよさに意識が飛び、目を開けると……。
景色が一変している。
日没後のブルーアワーの最中に、ヴァルドと肌を重ねていた。
だが今は──。
目に飛び込んできたのは、空の部分を見つけるのが難しいような星空。
「ヴァルド、すごいわ……」
そう言って最愛の顔を見ると、その瞳は星空を映し、煌めいて見える。
「明かりがいらないほどの星の輝きだ」
そう言いながらヴァルドが自身の胸に私を抱き寄せる。
「本当に。驚きました」
しばしヴァルドと二人、星空を眺めた後、夕食の準備となる。焚き火をつけ、そこで具沢山スープを作った。ヴァルドのズタ袋に入っていたパプリカ、ニンジン、カブなどに加え、干し肉を入れることで、いい塩味と旨味がスープにしみだす。あとはパンと一緒に食べるだけだ。
薄布を敷き、そこに座り、食事がスタート。
「何だかこんな風に焚き火を囲むと、百年戦争を思い出すな」
「ふふ。でもヴァルドとリヴィ団長が焚き火を囲むなんて……ありえなかったですよね」
「それはそうだ。だがわたしは何度となく夢想したが」
これには「えっ」とちぎったパンを手にしたまま、動きが止まってしまう。
「川のほとりで戦闘になった時。魔術を使い、そのままリヴィ団長を川に落として……。しばらく流されたところで助け上げ、そのまま焚き火を囲み、二人で腹を割った話し合いを出来たら……とは何度となく、考えた」
「そうなんですね……和平について話したかったのですか?」
「わたしはそんなに聖人君主ではないぞ。焚き火を囲み、リヴィ団長が装備を外した姿を見せてくれることに期待した」
それはつまり私が女性に見えてしまい、困っていたヴァルドが、服を脱いだ私を見て、本当に男なのか、確認したかったということでは……?
チラリとヴァルドを見る。
きっと共鳴で私の考えを感じたはずでは!?
「そうだな。確認をして女性であると分かったら、その場で押し倒していたかもしれないな」
「!? まさかヴァルドがそんなこと! しませんよね!?」
「さあ、どうだろう。わたしは刃を交えて数回目で、リヴィ団長が女に見えるようになっていたからな。服を脱ぎ、水も滴るいい女の姿をさらされたら……。理性など簡単に吹き飛ぶだろう」
ダメよ!
絶対にダメ!
ヴァルドに押し倒される自分なんて想像しちゃ!
そこで私は愛らしいフロストの顔を、必死に思い浮かべるのだった。






















































