【番外編】バカンス(5)
「ミアはもう帰りたいか?」
ヴァルドに問われた私はドキッとすることになる。
もしやヴァルドはこの場所で、私と二人きりで一晩を明かしたいということ?
ここは南側遥か遠くに島が見えるが、それ以外は見晴らしがいい。昼食の時のように木陰に隠れ……とはならないのだ。
誰が見ているわけでもない。
でも、そんな。
こんな場所で!?
「ミア」
ヴァルドが口元に微笑を浮かべ、私を抱き寄せる。
その理由はすぐに分かってしまう。
私の妄想がヴァルドに伝わっている……!
「そちらの希望は勿論、叶えよう。それは願ったり叶ったりだ。わたしもそうしたい。だがもう一つ。日没後のこの辺りの変化も見ておきたい」
すっかりお見通しなことに、またも全身が熱くなるが……。
「日没後のこの辺りの変化……。何か起きそうなのですか?」
「まずハート型の貝という珍しい貝が発見された。ブルクセン大公国がある島からもかなり離れているし、ここの生態系は特殊なのかもしれない。メラニーから報告も上がるかもしれないが、わたし自身、せっかくここまで来たんだ。この目で見ておきたいと思った」
「なるほど! そういうことでしたか。勿論です。ここに何度も来ることはできないでしょうから、一晩。過ごしてみましょう」
「ありがとう。わたしに付き合ってくれて、ミア」とヴァルドは私の額へキスをする。
もしや早速……と期待でドキドキするが、ヴァルドは「こういう場所と気候だ。水分補給をしよう」とティータイムを提案する。
ヴァルドが持参したズタ袋は前世の猫型ロボットのポケットのようだ。
いろいろ入っており、それを魔術で変化させることで……。
旗を立てる時に使うような立派なポールを四本立て、布を結わきつけることで、日陰スペースを確保。あとは簡易の竈をこれまた魔術で用意し、鉄の塊を鍋に変え、海水を真水へと変化させて……。
持参した茶葉であっという間に紅茶を用意できた。
そしてクッキーとドライフルーツでティータイムとなる。
さすがに倒木はないので、薄布を敷いて砂浜の上に座ったが……。
問題ない!
エストールとセフィーナはラグーンを超え、島の方へと飛んで行ったようだ。
文字通り、ヴァルドと二人きりでティータイムを楽しむ。
ティータイムの後はまったりタイム。
つまりはヴァルドを膝枕して、ウトウトする。
ヴァルドはズタ袋を魔術で大きなクッションに変えてくれたので、それに私はもたれていた。
二十分程、まどろんだ後。
私はヴァルドに提案する。
「せっかくなので、海に入ってみませんか?」
「海に入る……いいが、ミアは泳ぎは?」
「リヴィ団長ですから、私は。泳ぎの特訓も受けています!」
本当は特訓なんて受けていない。
でも前世で水泳は得意だった。
コツは覚えている。
「いいだろう。魔術を使えば乾かすことができる。だがそのシャツとズボンは脱いだ方がいい」
そう言うとヴァルドは私の服を脱がせるのだけど……。
そんなことをされたら、いろいろな期待で体が反応してしまう。
これだけ心臓がバクバクしている。
ヴァルドには共鳴で伝わっていると思う。
でも……何もしてくれない……!
しかもヴァルドが自身の服を脱ぐ様子は……。
ボタンを外していく仕草。
ズボンのベルトに手をかける様子。
いちいちドキドキしてしまう。
「よし。これでいいだろう」
残念だがズボンは脱がない。
ではなく。
「海水温は低くない。たっぷりの陽射しもあるから、海に入るには丁度いい。だが波は常に動いている。冷たい海水が急に流れ込むこともあるから、ちゃんと準備をしよう」
そう宣言した後、ヴァルドはストレッチをしようと言い出す。
私は下着姿なのに。
ヴァルドはこれから海に入るための準備に余念がない。
全く無反応なのは、それはそれでなんだか悲しいのです!
「浅瀬はハート型の貝ばかりだが、念のためだ。ミアのことは途中までわたしが抱き上げていこう」
下着姿の私をひょいと抱き上げる。
上半身裸のヴァルドに抱き上げられているのだ。
体のあちこちがヴァルドに触れ、キュンキュンしてしまう。
でも……やはりヴァルドに反応はない。
もしかして泳ぐのが好きなのかしら?
もうこれから泳げることで、頭がいっぱいなの?
ヴァルドに抱えられ、海の中を進み、抱き上げられている私の体も海水に隠れるところまで到達すると……。
「湯に入っている時とも違う。でも多分、問題ないだろう」
「?」
「ミアがわたしを求めている。それに応えるのは、夫としての役目だろう?」
「!?」
「まさか海の中で、ですか!?」という言葉をヴァルドのキスと共に呑み込むことになる。
だって。
散々キュンキュンしていたのに。
ヴァルドのポーカーフェイスに焦れ焦れしていたのだ。
こんな風にキスをされたら……。
「ヴァルド……」
吐息が熱く、海水が快適なぐらい、体が熱くなっている。フッと口元に笑みを浮かべたヴァルドは、私の太腿を持ち上げると……。
グイッと自身の腰の方へと引き寄せた――。
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