【番外編】バカンス(4)
真っ白な砂浜。
勾玉のような形の島の、細い先端部分に降り立った。
見渡す限り、遮るものはない。
「この地図ではこの辺りは森のはずだが……」
ヴァルドは持参していた宝の地図を広げ、現況と見比べているが……。
「この島は海に沈んでいるのがデフォルトのはずだ。こんな風に姿を現わすのは夏の限られた期間のみ。この地図に書かれているような森も花畑も……そして宝も。ないのだろうな」
「そうですね。一応、宝の印のある場所に行ってみますか?」
「そうだな。砂を掘り起こしたらそこに宝箱が埋まっている可能性は……限りなく低いと思うが、確認してみようか」
地図では宝の島となっている。
だが実際は砂州。
海に沈んでいる時間が長い。
海中では波がある。
嵐の時など、海中だって荒れるだろう。
もしこの砂州の浅い場所に宝箱を埋めていたら、それは海中に流れ出てしまう可能性が高い。
仮に砂州の中に留まっていたとしても。
目印など意味はなく、地図に示された場所とは全然違う場所に移動していることも考えられる。
ではものすごく深く掘った場所に埋めていたら……。
それはそれで見つけ出すのが困難。
「砂だからな。海水と同じように流動性もある。埋められた宝箱は砂州内にあったとしても、時に深く埋もれたり、逆に表面に現れたりするだろう。位置を特定するのは難しい」
まさにヴァルドも私と同じことを考えていた。
それでも私の手をとり、地図の示す場所へと歩き出す。
上空ではエストールとセフィーナが楽しそうに旋回している。
「フロストは宝箱をとても楽しみにしていたわ。手ぶらで帰ったら、がっかりしそうですね」
「そんなことはない。わたしが幼かった頃は、冒険話を聞くだけでも楽しかった。それに……」
そう言うとヴァルドは波打ち際へと向かう。
そしてそこでスッと手を伸ばし、海の中に手を入れる。
「ミア」と手に何かを持ち、差し出した。
「?」と受け取った私はビックリ!
「これは……ハートの形をした真っ白な貝ですね!」
「この島の周囲に沢山、この貝が転がっている。初めて見る貝だ。これをフロストのお土産にすればきっと喜ぶだろう」
「フロストだけではなく、みんなにプレゼントしたら喜んでくれそうです」
前世でも南の島のお土産屋で見たことがある。
確か名前は……リュウキュウアオイガイだ。
「ではこの瓶に入れるといい」
ヴァルドが担いでいるズタ袋から瓶を取り出し、しばしハート型の貝を集めることになった。
その際、ヴァルドは持参していた布を魔術で帽子に変え、被せてくれる。
ヴァルド自身も帽子を被ったが、それはトリコーン!
海賊の船長が被るような帽子だ。
なんだかワイルドさが増し、カッコいい!
「これだけ持ち帰ればみんなに配れる」
「そうですね! 私だったらこれが宝物と言われても納得です。この場所まで来ないと手に入らない貝でしょうし、珍しいですから。何よりハートの形が素敵です!」
これを聞いたヴァルドはふわりと私を抱きしめる。
「リヴィ団長は見た目によらず、乙女だからな。マリアーレ王国のミアの部屋は沢山のぬいぐるみが」
「わあああああっ! ヴ、ヴァルド、それ以上は何も言わないでください! それは黒歴史と言われ、触れてはいけないことなんですっ!」
「クロ歴史?」
もうテンパる私は前世でしか通用しないようなことをマッドの時のように口走り、大変焦ることになる。
だがヴァルドは……。
「そんな風に照れるミアもいいな」なんて言いながらキスをするから! ハート型の貝を入れた瓶を、落としそうになった。
でもヴァルドが見事な身体能力で瓶をキャッチし、笑いながら「まずは宝箱を確認しよう」と私の手をとる。
こうして地図に示された場所に辿り着いたが……。
やはりそこには何もない。
当然だが、「宝箱はここです」なんていう分かりやすい目印もないわけで。
エストールとセフィーナに頼み、その辺りの砂を、その立派な足で掘り返してもらったが……。
何も見つからない。
極めつけはこれ!
ヴァルドが短く呪文を唱えると、晴天の中、雷鳴が響く。
つまりはサンレモニアの村で私がイノシシに襲われそうになった時に使った魔術で、雷を砂州に落としたのだ。通常の雷とは違うので、それはレーダーの役割も果たすようだ。砂州の中に何か固形の塊があれば、そこにぶつかる感触を捉えられるというのだ。
「砂州だからな。大きな岩が埋もれていることもないようだ。いくつか反応を検知したが、宝箱ではないだろう」
この結果は想定内。
「では……帰りますか?」
「ミアはもう帰りたいか?」
「え?」
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