【番外編】バカンス(3)
誰もいない無人島とはいえ。
まさか屋外でヴァルドと愛を確かめ合ってしまうなんて!
冷静になると何て大胆なことをしてしまったの!と思うものの。
私は前世の記憶があり、王族に転生したが。
もし平民に転生していたら……。
農作業の合間、青々と茂る麦畑で結ばれる……なんて展開が、この世界ではわりと一般的だった。
家は手狭、両親と同居している。兄弟もいる……となると、家の中より、外でそうなる夫婦が多数なわけで……。
などなど思っていると、ヴァルドが服を着ながら笑っている!
つがい婚姻による共鳴は、私の恥ずかしい妄想が全部ヴァルドにはだだ漏れです……。
というわけで。
恥ずかしくてヴァルドに背を向けて服を着ることになる。特に背を向けることで共鳴がなくなるわけではないのだけど。
なんとなくそうしていると……。
ふわりとヴァルドに抱きしめられ、耳元で「昼食が用意できた」と言われる。
これには驚き、振り返ると……。
「ヴ、ヴァルド、テーブルと椅子があるのですが、これは!?」
「魔術でゼロから作り上げるのは難しい。だがベースになるものがあれば、作り出せる。ここには倒木があったから魔術でテーブルと椅子に変えただけだ」
サラリとヴァルドはそう言うのですが……。
すごいと思います!
しかも!
「この焼き立てに見える卵料理とハムステーキは!?」
「卵とハムと鉄の塊を持参していた。そこに即席で竈を用意して、サッと用意してみたに過ぎない。当然だが、魔術は使っている」
「……すごいです。ヴァルドがいたら無人島でも生き延びることができますね……!」
するとヴァルドはそのまま私をぎゅっと抱きしめる。
「当たり前だ。わたしがいる限り、ミアの衣食住は保証する」
「ヴァルド……!」
なんて頼もしいのだろう!
嬉しくなり、せっかく着たばかりの服を再度脱ぐ事態になりかけたが。
そこは「料理が冷めないうちに!」と思いとどまることになる。
こうして何もないはずの無人島で、椅子に座り、優雅に昼食を摂った。
食事を終えたところでタイミングよくエストールとセフィーナも戻って来てくれた。
「では再度出発するか」
「そうですね」
手早く後片付け……魔術を解除すると、そこには倒木が元通りなっている。
出発の準備は整った。
再び空へと舞い上がる。
エストールもお腹いっぱいなようで、元気に飛行を続けてくれて……。
そこからさらに三時間後。
ティータイム休憩をしようと思ったまさにその時のこと。
「ミア、あれを見て見ろ」
ヴァルドに言われ、目線を動かすとその先には……。
「あれは……!」
宝の地図まんまの勾玉みたいな形の島……真っ白な砂浜の島だ。
「これは砂州だろう。そこに広がるのがラグーンで、遠くに見えている島がある。あの島とこの砂州はつながっていると思う。通常、この砂州は海水に没している。夏の特定の時期だけ、この辺りが引き潮になり、砂の島として姿を現わす……。それが幻の島の正体だ」
「そういうことだったのですね! でもそれなら確かにいくら探しても見つからないわけですよね」
「ああ。……それにしても雪のように美しいな」
サンレモニアの村にいた時。
冬の森にビバーナム・ティヌスを取りに行ったことがある。その時もヴァルドは、ビバーナム・ティヌスのサファイアのような実を見て、今のように「……美しい」と呟いていた。
あの時を思い出すと、しみじみと不思議な気持ちになる。
こんな風に上空からヴァルドと眼下を見下ろすことになるなんて。
想像していなかった。
「……ミア」
ヴァルドがぎゅっと私を抱きしめる。
「サンレモニアの村にいた時。わたしがどれだけ自制していたか、想像できるか?」
「ヴァルド……!」
「ミアの心の動きが、つがい婚姻の共鳴で度々伝わって来たんだ。何度となく、すべてを打ち明けたくなり、この腕にミアを抱きたいと思っていた」
私は表面的には冷静でも、脳内でいろいろ反応してしまう。だからヴァルドについて考えたあれやこれやは……。
全部伝わっていたのかと思うと、猛烈に恥ずかしい!
「恥ずかしがる必要はない。どんなミアでも愛している。一生、わたしにはミアだけだ」
ここがエストールの背であることを忘れそうになる。
今すぐヴァルドとキスをしたくなるが……。
「ひとまず降りますか?」
「ああ、そうしよう。エストール、降下してくれ」
こうしてまるで新雪のような白さの幻の島であり、宝の島に降り立った。
お読みいただきありがとうございます!
次話以降しばらく13時頃で公開しますね~
そして明日は新作の公開もあるのでお楽しみに☆彡






















































