【番外編】情熱の香りを試してみた!
以前、ちょっとしたゲームをした後。
ヴァルドとラベンダーの香りのついたキャンドルの試作品を使うことになった。
確かにあのキャンドルは、普通に使えば、就寝前のリラックスタイムをもたらしてくれる。ナイトティーと共に楽しみ、落ち着いた時間を過ごせるだろう。
それが正解のはずだった。
でもヴァルドには当てはまらない!
だって彼は魔術も使えるし、並々にならぬ強靭な精神力の持ち主。
結局。
あれは情熱の香りのキャンドルだったの!?
と思える程の溺愛の夜を過ごしてしまった。
そんなラベンダーの香りのキャンドルに続き。
情熱の香りのキャンドルの試作品。
こちらを試すことにした。
ただ、私としては。
ヴァルドが情熱の香りのキャンドルの影響を受け、普段より乱れる姿をみたい。
だって私がヴァルドの純潔を奪った時でさえ。
彼は頬や耳を赤くしたりはしたものの。
ここぞという瞬間は目を閉じ、決してあのクールな顔立ちを崩すことはなかったのだ。
その後、何度も肌を重ねている。
妖艶な表情やドキッとするような顔を見せてくれるけれど……。
もっと乱れたヴァルドをみたい!
そのためには情熱の香りのキャンドルの影響を受けて欲しいと思う!
そのためには……。
まず、私がヴァルドがメロメロになるような装いをする。次に、早めにキャンドルに火をつけ、室内を情熱の香りで満たす。最後に、ヴァルドに魔術の利用を禁止する!
ということでまずは私の今宵の装い。
ピンクゴールドのシルクのガウンの下は、なんと!
ネグリジェではなく、黒のレースたっぷりの下着。
シルクの光沢といい、胸のラインをくっきり浮彫にしており……。
自分で言うのもなんだけど、とても……色っぽいと思います……!
続いてはヴァルドが来る前に情熱の香りのキャンドルを灯し、寝室全体をこの香りで満たすことにした。
このままこの寝室にいては、私が先に気持ちを興奮させ、昂らせてしまうことになる。前室へ移動し、リカに用意してもらっていたオレンジ・ピール・ティーをティーカップに注いだ。
あとはヴァルドに魔術を禁止する方法。
そこでノックの音ともにヴァルドが姿を現わす。
するとすぐにその片眉がくいっと上がる。
だがフッと口元に微笑を浮かべると、ソファに座る私の横に腰を下ろす。
「オレンジ・ピール・ティーか。新鮮なオレンジの香りとすっきりした味わいが気に入っている」
ヴァルドはそう言うと、私が注いだオレンジ・ピール・ティーの入ったカップを受け取る。
「ラベンダーティーやカモミールティーではなく、このフレッシュなオレンジ・ピール・ティーを用意したということは。ミアは今晩、存分に楽しむ所存なのか?」
アイリス色の瞳をきらめかせたヴァルドに流し目をされた。
それだけで体が反応しそうになっている。
いや、反応していると思う。
そこで気が付く。
やはりヴァルドは普通に魅力的だから、乱れる姿などを見せられた日には。
その際中に失神してしまうかもしれない。
どうしよう。
ヴァルドに魔術禁止をお願いするべき!?
それともこのまま――。
「うん、ミア? 顔が赤いぞ。もしや既にナイトティーどころではないのか?」
くすくす笑いながらヴァルドが私を抱き寄せる。
そして……。
ヴァルドはシルクのガウン越しに私に触れ、そこに体温を感じる。
敏感なヴァルドだから、すぐに気付いただろう。ガウンの下にネグリジェを着ていない。下着だけであると。
「ミア……紅茶は後でも飲める」
一度ぎゅっと抱きしめた後、ヴァルドがひょいと私を抱き上げた。
「ベルガモットに混ざる甘い香り。これはオレンジ・ピール・ティーの香りではないな」
ガウンからのぞく胸の谷間にキスをすると、ヴァルドは既に看破している。
キャンドルに火をつけ、室内に行き渡るよう、少し持ち歩いた。それだけで香りが体に移っていたのだろう。
「……なるほど。ミア、これは例のキャンドルの試作品か?」
「……そうなんです。ちゃんと効果をみたいので、魔術を使うのは禁止でお願いします」
「そうなのか。魔術を使えばこの香りの効果を増幅できる。より興奮し、気持ちを昂らせることもできるのに」
「! そんなこともできるのですか!? 前言撤回します、使ってください!」
私の返事を聞くと、ヴァルドはクスリと余裕たっぷりで微笑む。
一方の私は部屋に入った瞬間から、ベルガモットと甘い香りをたっぷり吸い込み、後追いで感じるジャスミンの香りに、気持ちがときめいている。
「まずは試供品の効果を見ないといけない。そうだろう、ミア?」
「ヴァルド……」
ベッドに下されると、自分から両腕を伸ばし、ヴァルドを抱き寄せてしまう。
「ミア……」と笑いながらもヴァルドは求めに応じ、甘いキスをしてくれる。それでは足りず「もっと」とおねだりをすると、ヴァルドは「キャンドルは効果てきめんでは?」と言うが……。
既に私の頭の中は試供品のことは吹き飛んでいた。
つまり大いにあの香りの影響を受け、ヴァルドを求めてしまう。
私の求めに、ヴァルドは求めている以上に返してくれるので……。
すぐに私は頭が真っ白になり、何度も何度も脳内がスパークしている。
「ミア。情熱の香りのキャンドルは間違いなく成功だ。こんなに積極的なミアは、あの日以来だ」
合間にヴァルドにそんなことを言われても、「そうですね」と呑気に応じる余裕などない!
「ミア、きつい。もう少し力を」
「ダメ。そのままきて、ヴァルド!」
もう怒涛の勢いで一度目が終わったが、全然足りない!
「……ヴァルド」
「分かっている。二度目は魔術で増幅させよう」
魔術で増幅……?
脳の中で反芻できたのは一瞬のこと。
その後は自分からヴァルドのあの神々しい体に絡みついてしまい……。
翌朝。
すがすがしい朝陽がカーテンの隙間から射し込み、そこで私は自分の過ちに気付く。
魔術で感度を増幅して欲しかったのは、私ではない。
ヴァルド自身だったのに……!
だが。
「あの情熱の香りのキャンドルはとても気に入った。ミア専用としてまずは半年分購入しようか」
ヴァルドはアイスブルーのサラサラの前髪を揺らし、宝石のようなアイリス色の瞳を輝かせる。
昨晩の情熱の名残などなく、微笑む美貌のヴァルド。
今回も彼の乱れる姿を見れなかったのだけど……。
でもあんなことやこんなことをしてくれて、何度も私を悦びの極みに連れて行ってくれたのだ。
贅沢は言わないでおこう。
そして――。
『親愛なるケイン大公へ
前略
お送りいただいた情熱の香りのキャンドルの試供品。あれは間違いなく大成功です。量産体制に入り、本格的な販売に向け動きましょう。 敬具
心より感謝を込めてミア』
そう手紙を書くことになった。
お読みいただき、ありがとうございました~
海とキャンドル編はひと段落。そして!
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