それからの一週間
サンレモニアの村に着いてから一週間。
戦場で生きた三年間の経験が功を奏し、この村での生活にもすぐ馴染んだ。あてがわれた家は、一階にソルレンの寝室、二階に私の寝室だった。
バスルームとトイレは共同だったが、時間帯も決めているため、不自由はない。一階にはリビングルームとダイニングキッチンもあった。
戦士の役割は三交代制。どちらかが夜勤の時もあった。同じ建物の一階と二階にそれぞれのメインの部屋があるわけだが。
顔を合わせることがない日もあるぐらいだ。
完全に入れ違いで役割に就くパターンがある一方で、うまくタイミングが合えば、ダイニングキッチンで一緒に食事をすることもある。
もはやソルレンは騎士団にいた時の、ノルディクス副団長やコスタみたいな存在になっていた。
村での生活に問題はない。
では気になる追っ手はどうか。
今のところ何もない。
戦士の役割上、村の周囲の警戒は怠らないが、不審者を見かけることもなかった。
追っ手ということで、ヴァルドばかり考えてしまうが、私は王城を抜け出して来たのだ。つまり父親の方の追っ手がかかる可能性もあった。というかヴァルドが正式に、父親に私がした行為について抗議していたら……。
今頃大問題になっているはずだ。
父親の計画は、私という駒が手元にあって、初めて成立するものだった。ヴァルドの純潔を奪い、つがい婚姻で私を皇后にするしかないだろうと、帝国に迫る。次期皇帝はヴァルドしか考えられないだろうし、彼の血……魔力を受け継ぐ後継ぎが欲しい。
そうなるとどうしても私を正式に皇后に迎えるしかなくなる。そこで父親は満を持し、私とスパイを帝国の皇宮に送り込む。帝国は喉元に刃を突き付けられた状態になり、マリアーレ王国の優位性を手に入れることになるのだ。
その肝心の駒である私がいないとなると、父親は帝国から散々非難され、切れるカードもないことになる。ただ、その場しのぎはできるかもしれない。私の失踪を隠し、つがい婚姻を持ち出し、「さあ、どうする?」と帝国に迫る。でもそれは帝国が安易に答えを出せない前提。
もしもあっさり「つがい婚姻を考えると、王女を皇后として迎えるしかありません。婚約を進めることに同意します。結婚の準備をいたしましょう」となると、父親はいよいよ困ったことになる。血眼で私を探すはずだった。
そうなると堂々と私の姿絵をニュースペーパー(新聞)に載せるだろう。方々の村や町に設置されている掲示板に、私の人相書きが貼られるはずだ。懸賞金もつき、国民総出で私を探す……。
いくら私が南に向かい、船出を偽装していたとしても。念のため、国内もくまなく捜索するだろう。このサンレモニアの村にも「マリアーレ王国の国王が、失踪した王女を探しているらしい」という情報が入って来ると思うのだ。
同時に帝国……ヴァルドだって私を探すかもしれない。探す、というより、攫う算段を立てる可能性があった。
私の父親からいろいろ条件を突き付けられ、婚約と結婚に持ち込むより、いっそ私一人を攫う方が楽だ。
なぜなら国同士の行事として、盛大な結婚式をやるとなれば……。
私の輿入れと共に、マリアーレ王国の多くの人間を、帝国は皇宮に迎え入れざる得なくなる。でも私をさらい、皇宮に閉じ込めてしまえば……。
少なくとも厄介なスパイを皇宮に入れないで済む。
そのことを考えれば、ヴァルドが私を王宮から奪い出す計画を立てているかもしれなかった。
だが、そんな情報は一切入ってこない。
サンレモニアの村は、外部の情報に疎いわけではなかった。むしろ敏感。なぜなら多くが戦乱から逃れ、ここへやってきたのだ。
百年戦争がどうなったのか、その情報は仕入れる必要がある。ゆえにサンレモニアの村では、偵察の役割を担う人間はほぼ毎日、森を出て情報収集をしていた。訪問する村や町を変えながら。
ニュースペーパーも毎日手に入れ、それは村長の自宅へ行けば、いつでも読むことができた。
そして私はサンレモニアの村に来てから、毎日欠かさずニュースペーパーに目を通している。だが王女失踪の情報はどこにもない。掲載されていたのは、平和条約締結記念舞踏会が大成功で、ヴァルドと父親……国王が笑顔で握手する姿だ。
これは一体どういうことなのか。
お読みいただきありがとうございます!
春頃に書いたけれど、お蔵入りになっていた作品を大晦日蔵出し放出決定!
全13話、年内完結ですので気になる方はよろしかったら☆彡
本日12時より更新スタート!!
『悪役令嬢は断罪回避のためアレを落とすことにした』
https://ncode.syosetu.com/n3646iq/
今回バナーはなく、期間限定でテキストリンクをページ下部に掲出です~






















































