【番外編】海とキャンドル(15)
ブルクセン大公国。
周囲をメデタリアン海に囲まれた島国だった。
元はルソン国の一部ではあったが、大陸から離れている。独立することを認められ、ブルクセン大公国が誕生したのだ。
代々の大公が治めるこの国に、兄とわたしは生まれた。
兄の名前はルクセン。
わたしと兄は年子だった。
だが赤ん坊の頃から──。
「ルクセン坊ちゃま、ローダン坊ちゃま。本当にそっくりですね」
両親だけではなく、乳母をはじめとした使用人からも、そう言われていたのだ。
容姿も。性格も。言動さえ、似ていた。
ゆえに双子のようだとよく言われた。
そんなわたし達と同じような、伯爵家の姉妹ララとルルと知り合うことになったのは、大公妃である母親が主催したお茶会の席だった。
わたしの母親は子供好きだったので、本来、乳母に任せきりにする子育てにも積極的に関わってくれた。そして大人の女性の社交場であるお茶会の席に、子供の同席を許してくれたのだ。
と言っても令嬢やマダムと共に席に着くわけではない。
子供達用のテーブルが設けられ、そこにお茶会に参加するマダムの子供達が着席したのだ。
ルクセンの隣に座ったのが、ララ。
わたしの隣に座ったのが、ルル。
わたし達と同じ、年子のララとルル。
ララはルクセンと、ルルはわたしと同い年だった。
そしてルクセンもわたしも、青い瞳に、ブラウンに近いブロンド。たがララとルルは、見事なブロンドをしている。そして二人ともその容姿は大変よく似ていた。
だが性格は、ルルの方が積極的で、ララは姉ながら大人しい。
ルクセンもわたしも。
性格はルルと同じ。
積極的だった。
こうなるとルルとうまがあい、ララとはそこまで仲良くならない……周囲はそう思ったが違う。
ルルはすぐに兄弟のような存在になった。
ルクセンとわたしに妹がいたら、きっとルルみたいだと思えた。
対するララは完全に憧れの存在になる。
誕生する子供が男の子か、女の子か。
それは分からなかった。
ゆえに両親は、男女それぞれのおもちゃやぬいぐるみ、人形などを用意していた。そしてそれらのおもちゃは、ルクセンが誕生し、わたしが生まれてからも、そのまま部屋に残されている。
そこに美しいビスクドールがあったのだが。
まさにララはそのビスクドールみたいに見えたのだ。
つまり四歳で出会ったララに、ルクセンもわたしも恋をした。
そしてルクセンも私も。
将来ララをお嫁さんにすると、両親に伝えていた。両親は驚きながらも、わたし達の意図を汲んでくれたが……。
ルクセンはわたしの兄であり、後継者。
未来の大公だ。
ララはルクセンの婚約者になり、わたしは……ルルと婚約することになる。
あまりにも幼く、最初は理解出来なかった。
なぜわたしはララと婚約できないのか?
納得できなかったが、ルクセンのこともララのことも好きだった。諦めるしかないと、これを受け入れた。
だが……。
ルクセンを優先し、わたしが諦めることは、これでは終わらなかった。
幼い頃は些細なことだ。
食べたいお菓子、遊びたいおもちゃ、読みたい本があっても、それは性格も似たルクセンも食べたい、遊びたい、読みたいと思うもの。
そうなると乳母もメイドもこう言うのだ。
「ルクセン坊ちゃんはお兄さんですから。譲ってさしあげましょう、ローダン坊ちゃま」
そう言われるのだ。
兄に何もかも譲るのが当然。
そう刷り込まれるかのように、育てられる。
さらに成長し、乗馬を覚え、剣術を習い、狩りに参加するようになると……。
「ローダン様、その獲物はルクセン様に譲りましょう。きっとそうすれば、ルクセン様も喜ばれます」
そんな風に言われるようになる。
兄とは絶対的に何事においても、最優先されて当然。
そんな存在なのか。
そう思っていたら……。
「ローダン、まだ分からないの? あなたはルクセン様のスペアなのよ。ルクセン様にもしもがなければ、活躍する機会はない。この国の大公に、いつかなるルクセン様こそが、皆の希望と未来」
そう教えてくれたのはルルだった。
ルルは……兄弟のような、友のような存在。
だがブルクセン大公国の法に従い、兄から遅れること一年、遂にルルと結婚し、侯爵位を賜った。
ルルとわたしは共に18歳になったばかりの夏に式は行われ、その初夜が終わった直後。
ルルは恐ろしい現実をわたしに伝えたのだ。
どうしてこの事実をわたしが知らなかったのか。
それは……他でもない。
皆がわたしに悟られないよう、話さなかったからだ。
「あんな大人しい子をルクセン様が好きになるなんて。ついていないわ。ルクセン様は健康そのもので、病気の兆しはない。暗殺者も返り討ちしそう。死ぬなんて想像できない。結局、侯爵止まりのあなたと、これからやっていくしかないんだから」






















































