メルヘンな建物
「ここが村長の家だよ」
青い三角屋根のメルヘンな建物だ。
そして村長と聞くと、白髪の好々爺のイメージがある。
しかもこんなおとぎの国のような村なのだ。
きっと想像通りの老人が、迎えてくれると思ったら……。
「よくいらっしゃった。あたしやこの村で長をしているミーチルと申します。あなたのお名前は、お嬢さん」
自宅のポーチでロッキングチェアに座り、ニコニコと声をかけてくれたのは、白髪の髪を三つ編みにした老婆だ。額には、革紐にビーズの飾りがついた、ヒッピーバンドのようなヘアバンドをつけている。
彼女がこの村の村長……。
前世持ちの私からしたら、女性の村長であっても驚くことはない。だがこの世界では、女性がつく職業は限られている。女性の村長なんてこの人以外いないだろう。
「初めまして。私は……その、ミアと申します……」
ファミリーネームを名乗れば、私が何者であるか分かってしまう。この村で骨を埋めるつもりだった。だが王族であると堂々と言うのは……。そこまでの勇気はまだない。ただファミリーネームを問われたら、答えるしかないと思っていた。
ドキドキしながら老婆の反応を待つと……。
「ミア。いい名前だね。ここまで女一人でやって来るなんて。しかも馬も連れていた。お前さんは……戦士だね。腰には立派な剣もある。この村には役割を担うことで、住むことができる。ミア。お前さんはこの村の戦士として、獣や敵の侵入を防ぎ、村人を守って欲しい。引き受けてくれるかい?」
これはもうまさに天職! お針子仕事をやれ、料理を作れと言われたら……。正直、自信がなかった。前世でも家事は……あまり得意だったわけではない。
「はい! 戦士として、この村の平和を守ります!」
私の返事にミーチル村長はニコニコと笑う。そして三つの掟について教えてくれた。
「この村には、いろいろな理由で人が集まっている。だから詮索は禁止。『以前は何をしていたのですか?』『どうしてここに来たのですか?』これはお互いに聞きっこなしだ。次に暴力は禁止。村人を理由なく傷つけたり、脅したり、危害を加える行動をとったら、追放だよ。最後は思いやりの心を持つこと。ここの村人は、みんなファミリーみたいなもの。困っている人を見かけたら、声をかける。助けてもらったら『ありがとう』と伝えること。この三つを守ることができるかい、ミア?」
ミーチル村長が、グリーンの瞳で私をじっと見た。
「はい! 良き隣人となれるよう、三つの掟を守ります」
「元気でいい返事だね。ではこの村の住人と認めるため、この水晶で確認をさせておくれ。基本的にこの村は、来るものを拒むつもりはない。だがね、犯罪者は受け入れることができない。ミアは戦士だから、戦場で命のやり取りをしたことがあるだろう。でもそれは犯罪ではない。使命を果たした。そうではない、女子供を殴り殺したとか、家に火を放ち焼き殺したとか、そんな恐ろしい犯罪者を村に迎えるわけにはいかない。この水晶にかけられた魔術で、それを確認させてもらう」
ミーチル村長が後ろに目配せすると、後方に控えていた銀髪に黒い瞳の青年が、自宅の中に入る。そしてメロンぐらいのサイズの水晶玉を白い布にのせ、扉から出てきた。
青年のその体つきから、元兵士か騎士であり、髪色からノースクリスタル帝国の出身者と想像できる。
「彼はソルレン。ミアと同じ戦士だ。戦士は日替わりで、あたしの護衛についてくれるんだよ」
そこでソルレンは初めて微笑を浮かべ、私に会釈する。
どこかクールな感じ。
ヴァルドみたいだ。
そこで一瞬、絶頂に至る瞬間のヴァルドの顔が脳裏をよぎり、全身から汗が噴き出しそうになる。
緊張の場面で余計なことを思い浮かべてしまう――前世で言うならマーフィーの法則では!?
「おや、ミア、大丈夫かい? 顔が赤いよ。判定を終えたら、冷たい飲み物を用意させよう。ハナ、氷室の氷をとっておいで。それでレモネードを用意して」
「はーい!」
まだ若い少女の声が聞こえた。
バターブロンドで琥珀色の瞳の十六歳のハナは、村長の孫なのだという。
なんとか深呼吸をして気持ちを静める。
「では判定を」「はい!」
ソルレンが私の前に水晶を差し出す。周囲の景色を映し込み、水晶はゆらゆら揺れて見える。触れるとヒンヤリと思いきや、なんだか温かい。
「ミア、お前は戦場以外の場で、罪なき人を手に掛けることは、していないか?」
「いえ、していません」
「ミア、お前は戦場以外で、誰かを傷つけたことはないね?」
「はい。ありません」
「ミア、お前は嘘をついていないね?」
「はい。嘘はついていません」
水晶がぱあああっと輝いた。でもそれはすぐに収まった。
ミーチル村長が満足気に頷き、告げる。
「合格だよ、ミア。ようこそ、サンレモニアの村へ」






















































