【番外編】海とキャンドル(10)
ローダン侯爵と医者が来たのは理解できるが、どうしてフロスト!?と思ってしまうが。
「パァパ、マァマ」と、とても真剣な表情でこちらを見るフロストを目の当たりにすると……。
「「フロスト!」」
ヴァルドと二人、声を揃え、駆け寄ってしまう。
すぐにマーニーからフロストを預かったヴァルドもまた、真剣な表情になっている。
そのヴァルドの耳元で、フロストが何かをささやいていた。
一方、ローダン侯爵は連れてきた医師に指示を出し、衛生兵から状況を確認している。
ヴァルドとフロストがあまりにも真剣なので「何を話しているの? ママにも教えて」と言いたいところなのだけど、とても言える雰囲気ではない。
「そうか。スティンガー。蜜蝋を扱っているなら、虫も寄ってくるだろう」
ローダン侯爵の声が聞こえ、医師は鞄から注射器を取り出していた。
「待て!」
そこでヴァルドがかなり厳しい声で告げたので、ローダン侯爵が連れて来た医師は、驚いて動きを止める。
医師は注射器を手にしていたが、固まって目だけを動かし、ヴァルドを見た。
「スティンガーはヒスタミン系の毒だ。だが今回は神経毒の可能性がある。衛生兵、神経毒に効くポーションを用意しろ」
「な、どうしたの、ヴァルド? 神経毒……って、一体……!?」
私が尋ねると、ヴァルドは揺るぎない自信のある表情で、こう告げる。
「ひとまずポーションを飲ませ、様子を見よう」
「皇太子殿下、どういうことですか!? スティンガーに刺されたのであろう?」
ローダン侯爵が心配そうに尋ねる。
「作為的でなければ、スティンガーの可能性が高いでしょう。ですがケイン大公の暗殺を目論んだ者がいるかもしれません」
ヴァルドのこの発言に、ローダン侯爵は目を剥く。
「そんなこと、あるわけが! ケインは優しい子で、誰かに恨まれるようなこと、あるわけがない!」
「個人的に恨まれなくとも、大公という地位にある限り。暗殺の危険と無縁ではいられないのでは?」
それはヴァルドの言う通りだ。
大公は公国を代表する立場。
王族や皇族が常に暗殺の危険と隣り合わせなのと同じ。ローダン侯爵も冷静になったようで、ケイン大公が暗殺の危険と隣り合わせであることを理解し、改めてヴァルドに尋ねる。
「なるほど。それで、そのポーションで、ケインは目覚めるのだろうか?」
「ええ。目覚める筈です」
ヴァルドが応じ、ケイン大公に神経毒を解毒するポーションを飲ませ、見守ることになったが……。
そのポーション、皇族のために用意されているもの。効果はてきめんで、ケイン大公は遂に目を覚ました。
◇
「実はあの時、用意されたキャンドルに触れると、チクッと針を刺すような痛みを感じたのです。持ち替えて別の場所に手を置いても同じ。さらにマッチ箱。箱からマッチ棒を取り出す時。マッチをする時も。指先にささくれでも出来ているのか。そんな風に思い、確認すると、何か小さい黒っぽいものが刺さっているのを発見しました」
ポーションの効果で解毒が行われ、目覚めたケイン大公に話を聞くと、そんな風に言われたのだ。さらに。
「でもその時は何かゴミだろうと思い、指から取ると、そのまま床に捨ててしまい……もう見つけられないでしょうね。本当に、針の先のような小ささだったので」
蜜蝋にはゴミが混ざっていることもある。もしかすると木の破片でも入っていたのかと、ケイン大公は考えた。まさか毒針とは思わない。
それもあり、あの時ヴァルドが情熱の香りのキャンドルを持とうしたのを、ケイン大公は阻止したのだ。ヴァルドが指に傷を作っては大変だという咄嗟の判断だった。偶然、手がぶつかったわけではなかったのだ。
不純物が混ざっており、チクッとするかもしれないと、ケイン大公があの場で言わなかったのは……不純物=性能が悪いと、ヴァルドや私が懸念するのではないかと思ったからだと言う。
「そんなことで取り引きを止めることはないだろう、ミア?」とヴァルドに問われ、私は「ええ。もし不純物が頻繁に混ざるようでしたら、原因を解明し、解決すればいいのですから」と伝えるとケイン大公は安堵する。
それにそもそも不純物ではなく、どう考えても毒針。しかも神経毒。そしてその毒は指先から体内に侵入したことは間違いなかった。
そうなるとケイン大公が手にしたキャンドルとマッチ。こちらを念入りに調べたが、何も発見されない。
キャンドルとマッチを用意した工房の職人にも話を聞いたが……。
「商品に指痕が残らないよう、手袋をつけて作業しています。そのおかげで自分は事なきを得たのでしょうか」
そこで使っていた手袋を回収しようとしたが……。
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