【番外編】海とキャンドル(6)
ふわっと海の香りを感じた気がして、目が覚めた。
すると「ミア」と優しく名前を呼ばれ、背中からぎゅっと抱きしめられる。
「……私……」
首を後ろに向けると、ヴァルドが額に軽くキスをする。
「眠っていた。30分ほどだ。昼寝にはちょうど良かったのでは?」
「あ……そうなんですね」
確かに今の私はヴァルドに腕枕をされていた。
船旅の間、我慢をしていたヴァルドの溺愛は、私を気遣いながらもとても濃厚で……。
身も心も満たされて、ヴァルドの腕の中で眠りに落ちてしまったようだ。
昼寝は長く寝すぎると、逆に疲れてしまうという。それを思うと今はまさに最適な状態。
「疲れは大丈夫か? ポーションは?」
「大丈夫そうです。……そろそろ準備ですか?」
体を動かし、ヴァルドに抱きつく。
頰が引き締まった胸板に触れ、とても心地いい。
「そうだな。もうそろそろだが……」
そこでヴァルドが私の顎を軽く持ち上げる。
「まだ甘えたいか?」
少し照れながら瞳を伏せて「そうです」の合図を送ると。
「わたしも同じ気持ちだ」
ヴァルドが大きく体を動かすと、私は仰向けになる。
彼の端正な顔を見上げると……。
ゆっくりとヴァルドの唇が私の唇へと重なった。
◇
公的な昼食会。
ここで万一があると困るので、フロストはマーニーと共に自室で昼食をとってもらうことにした。
「神々の間」と呼ばれる昼食会の会場には、碧いテーブルクロスを敷かれた長テーブルが、いくつも並べられていた。そしてテーブルには、ハイビスカスのような花とトロピカルなフルーツ、銀食器が並べられている。
夜に舞踏会もあるだろが、沢山の貴族が着飾って着席していた。
ヴァルドは公国に敬意を表し、碧い色のフロックコートを着ている。私もそのヴァルドに合わせ、碧い色でグラデーションしたドレスを着ていた。泡のようにパールが飾られた、公国用に仕立てたドレスだった。
「それでは両国のさらなる友好を祝して乾杯を」
乾杯の音頭を任されたローダン侯爵の掛け声に、皆、「乾杯」と唱和する。
そこからは実に豪快な料理が登場する。
前世のヤシの木に似た葉で包み焼きにした蒸し肉料理、チキンの丸焼きが出たかと思えば、大きなロブスターがドーンと登場、ガーリックの香るエビやパエリアに似た料理も提供された。
その料理を食べながら、交易の話や航路開拓の話など、外交の話も行われる。
その話はヴァルドが中心で、私は公国の宰相の奥方とおしゃべりとなった。
その最中、よく聞こえるのは、ローダン侯爵の笑い声。
どうやらヴァルドと一番話しているのは、ケイン大公ではなく、宰相でもなく、ローダン侯爵のようだ。
「ローダン侯爵は、亡き前大公そっくりで、豪快で快活でしょう。前大公の時も、彼を支え、積極的に意見をああやって表明していたのですよ。ケイン大公は急遽就任することになったけれど……。ローダン侯爵がいれば安心よね。実の息子のように可愛いがっているから」
宰相の奥方の言葉に「なるほど」と思う。落馬による死亡は実に悲しい事故だ。でも父親を思わせるローダン侯爵がいれば、ケイン大公はきっと心強いに違いない。
「ちなみにローダン侯爵にはお子さんがいないの。奥様を早くに亡くして、再婚なさらないから……」
「そうなのですね……」
「前大公の奥方、あちらの壁に掛けられている肖像画、見えます? 彼女はローダン侯爵の亡くなった奥方のお姉様なの。兄弟で姉妹と結婚したのよ。四人とも幼なじみで。『狭い島国だけど、結婚まで狭くまとまったな』って、四人は笑い話にしていたけれど……。その四人のうち二人が亡くなってしまうと、もう笑い話にもならないわよね」
今も楽しそうに笑うローダン侯爵は、年齢よりも若く見える。前世よりいくら寿命が短い世界でも。ローダン侯爵の奥方も。前大公も。早過ぎる死だったと思う。
一瞬、しんみりしかける。だが宰相の奥方は甘いもの好きで公国の美味しいスイーツについて教えてくれる。
「でもやはり一番はバターたっぷりのパンケーキですわね。とてもふわふわで、厚みがあるんですの。そこにマンゴー、パイナップル、ベリー類をトッピング。さらにたっぷりのホイップクリームをのせていただくのが定番なんですけど……。私のおすすめのいただき方は、粉糖をまぶし、バニラのアイスとバターをのせるの。もう本当に美味しいので、ぜひ召し上がって見てください。アツアツのパンケーキとアイス、実はとっても合うんですのよ」
これを聞いた私は思わず宰相の奥方の手を握ってしまう。
「分かります! それは間違いなく美味しいです!」
昼食会。
ヴァルドは外交で忙しかったが、私は宰相の夫人と社交というよりスイーツ談議で大盛り上がりしてしまった。
お読みいただき、ありがとうございます!
主人公が絶賛するアツアツのパンケーキとアイス、そこにかかるシロップ。
もう想像するだけで、香りさえ感じられる挿絵(写真)、ご覧いただけましたか。
はい。読者様の皆様は既にお気づきですよね!
こちら、なんと。
なんと!
食品サンプルなのです~!
バニラアイスとシロップの溶け具合など、ものすごいリアリティです。
芸術的な食品サンプルを作り続ける株式会社いわさき様にご協力いただきました。
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Xでは日々、驚きの食品サンプルのお写真が公開されています。
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