【番外編】海とキャンドル(3)
港に着いてしばらくは、またもフロストのテンションが上がって大変だった。
海に入りたいと言い出したり、海水を飲んでみたいと言ったり。
遂には魔術で海を巨大なボール状にして……。
「ははは! ちょうど水浴びをしたかったのですよ。フロスト坊ちゃんは勘がいいですね!」
ボール状の海水が弾け、マッドに直撃。
全身ずぶ濡れ、水も滴るいい男!?になってしまった。
本当はその海水、コスタが浴びるところだった。でもそこは見た目よりもうんと若く動けるソードマスター。コスタを避けさせ、自らが海水を浴びてしまった。
「フロスト。これはダメな行動だ。今が夏だからまだいい。冬だったらマッドは天国に行ってしまうぞ」
「ごめんなさい、パァパ」
ヴァルドに抱っこされたフロストは、泣きそうになるが、こんな風に尋ねる。
「マッド、かわかしてあげるといい?」
「そうだ。そういう時の呪文は……」
こんなハプニングに幼い頃に遭遇したら。
自分もそうだったが、まだ子供なのだ。
私でもタリオや双子の妹達でも、泣き出して終わりだっただろう。
失敗してしまった! どうしたら解決する?という思考ができるのは……間違いない! 有能なヴァルドのDNAを、フロストはしっかり受け継いでいる。
最近の私は親バカ万歳状態なのだけど……。
仕方ない。
フロストは魔力が強いだけではなく、聡明なのたがら!
さらにその風貌はヴァルドを思わせるし、きっと成長したら……。
帝国一、いえ、大陸一でモテる!
「ミア……」とヴァルドが笑っているのは共鳴のせい。でも仕方ないと思います! 事実だと思うので!
そうしている間に、マッドはびしょ濡れから一転。
今度はカラカラになるまで、乾かされてしまったのだけど……。
未婚のマッドだが、子供好きだった。
散々な目に遭ったが、ニコニコしている。後でお詫びを弾むことにして、ひとまず船に乗り込むことになった。
船でも大騒ぎになるかと思ったけれど……。
「フロスト坊ちゃんは、どうやらはしゃぎ過ぎて、疲れてしまったようです」
マーニーの言う通りで、すっかりおねむになっていたのだ。
「無理に起こす必要はない。寝かせておこう」
ヴァルドの提案には賛成。
まだ幼い子供は、眠るのが仕事みたいなのだから!
そこで昼食までフロストは寝かせることにして、ヴァルドと私はメラニーを連れ、船長の所へ向かうことになった。
あれよあれよで船が出航してから、一時間は過ぎている。船長や乗組員も航行ルートに乗り、ようやく落ち着いたタイミングだと思うのだ。
ということで船長室へ向け歩き出すと……。
「砂漠の民の一人として、海の旅は初めてです。同行できて嬉しいです!」
そう言って微笑むメラニーは、ナディアにそっくり。
健康的に日焼けした肌をしており、シルクのような黒髪で、黒目がちな瞳をしている。
ただ雰囲気としては、ナディアは妖艶なのだが、メラニーはどこか少年ぽさがあった。
髪をポニーテールにしており、快活に笑うので、あの露出多めの砂漠の民の民族衣装を着ていても、艶っぽくない。なんとも健康的で、見ていて清々しいのだ。
そんなメラニーなので、リカやコスタ、マッドなどヴァルドや私の周辺にいる人達とも、すぐに打ち解けた。そして今回の旅にも喜んで同行してくれたのだ。
「ここだな」
ヴァルドがそう言って扉をノックすると……。
ロマンスグレーの口ひげ、顎ひげの船長は、なかなかのマッチョ。
船旅は過酷。
ゆえに船員は体格がいい者が多いが、船長もまさにそんな感じだ。
それにいい塩梅で日焼けしており、ザ・海の男に見える。
その船長にメラニーのことを紹介すると……。
「何とサンド共和国の方がいるとは! この船はついています」
大喜びの船長とメラニーは、どのタイミングで風の精霊の力を使うかについて、話し始めている。
「ブルクセン大公国に着く直前が、無風帯に入るんです。そこは絶対にお願いしたいのと、あとは……」
そうやって話し合った結果。
通常10日はかかる航海が、なんと5日間で済むと言うのだから、もうビックリ!
この船は豪華客船というわけではなく、あくまで大陸からブルクセン大公国へ渡るための移動手段に過ぎない。目的地であるブルクセン大公国に早く到着するのであれば、乗客も乗組員も万々歳なのだ。
ゆえに。
船長が航海の短縮を伝えると、みんな大喜びだった。
こうして船で過ごした5日間はあっという間だ。
豪華客船でもない船旅なんて退屈……かと思いきや。
この船にはヴァルドとフロスト、そしてメラニーがいるのだ。
海にドルフィンを見つけると、海水でそっくりの形を作って見せたり。
打ち上げ花火ならぬ、魔術を使ったファイヤーショーを披露してくれたり。
風の力で海水を巻き上げ、雨のように降らせると、太陽光を浴び、海上に虹が出現したり。
即興のショーが開催され、みんなが楽しむことができた。
そしてルソン国を出発して五日目の朝。
遂にブルクセン大公国に到着した!






















































