【番外編】海とキャンドル(2)
幸せの絶頂を噛み締め、その余韻に痺れそうになっていると。
ゆっくりヴァルドが私から体を離した。
呼吸は乱れているが、ヴァルドは私を気遣い、そしてぎゅっと抱きしめてくれる。
この瞬間にこそ、最上の喜びを感じてしまう。
が!
ここで話をしないと、ヴァルドは再びの溺愛タイムに突入してしまう。
ケイン大公からの招待の件。
皇帝陛下夫妻には話し、快諾されている。
今日は晩餐会や夕食会もなく、普通に家族での夕ご飯の時間を持てたのだ、ただしヴァルドを除き。
ヴァルドは王都の西の端で起きた山火事の一報を受け、イザークら五つの公爵家と共に、現地へ向かっていた。
だがそれも無事、鎮火できている。
それはそうだろう。彼らは魔術を使えるのだ。近隣を流れる川の水を使い、延焼する前に鎮火させることに成功している。
よって夕食は別々となり、帰還後準備を整え、私の寝室へ来たヴァルドは……。
「ミア。夕食を共に摂れず、すまなかった。せっかくの家族水入らずの席だったのに」
そう謝罪をしてくれるが、ヴァルドは何も悪くない。
むしろ。
「無事、鎮火できて良かったです。マリアーレ王国では火災で村が一つ焼け落ちることもあるので。火を消すのは難儀なことですから。お勤めご苦労様でした」
労をねぎらう言葉をかけると、ヴァルドは私をメロメロにする笑顔を浮かべ――。
もうそのまま溺愛タイムに突入。
そうなると大公からの手紙の件は、頭から吹き飛ぶ。
だがほんの一瞬。
頭が真っ白になる直前に。
碧い海が脳裏に浮かび、思い出したのだ。
そして私を抱きしめるヴァルドに話すことになる。
「ヴァルド。海を見に行きましょう」と。
◇
「マァマ、マァマ!」
もうフロストは大興奮。
マーニーは自身の膝からフロストが落ちないかと、目を丸くしている。
このフロストの興奮は、共鳴により私にも伝わってきている。私もワクワクし、何かしたい気持ちになってしまう。
だって馬車の窓からは、海が見えているのだ!
いろいろ調整した結果。
7月の二週目の水曜日に帝国を出発し、ブルクセン大公国へ向かうことになった。
通常であれば、のんびりしなくても、公国への到着は一ヶ月近くかかる。だが私達には心強い味方がいたため、こんな道中になった。
まずは馬車の移動でマリアーレ王国へ向かい、そこで一泊。私の家族と共に過ごす時間を持てた。
翌日、ナディアが派遣してくれたビューネ族のメラニーにより、ショートカットでルソン国に入国。そのまま再びメラニーの協力で、王城まで移動だ。そこでルソン国王に挨拶し、すぐに港近くの町まで、これまたメラニーの……風の精霊の力を借りてやって来た。そこで一泊し、港まで馬車で一時間の移動だった。
今日はメデタリアン海に面した港から船に乗り、ブルクセン大公国を目指す。この船旅もメラニーに協力してもらい、数日短くなる予定だ。
ということで現在、馬車は港を目指し、走り続け、窓から海が見えて来た。
夏の陽射しを受け、その水面はキラキラと輝き、フロストはその海を見て大興奮だった。
「フロスト、落ち着くんだ。この後、港に着いたら、乗船まで時間がある。そうなれば海はじっくり見られる。と言っても港近くの海だ。そこまで綺麗ではないぞ」
ヴァルドはそう言いながら、マーニーからフロストを預かる。
フロストは海が見える窓から離れたので「うみ、うみ!」と手を伸ばし、その姿が愛らしくてたまらない。
「フロスト、海にはこんな生き物がいるぞ」
何とここは馬車の中なのに!
ヴァルドは魔術でドルフィンの形の氷を作り出す。
「これ、おさかな? きれい!」
フロストの関心は、瞬時に窓から見えている海から、ヴァルドの出した氷のドルフィンに移る。
「ぼくもしっているよ。うみにはね、おほしさまがあるんだよ」
そこでフロストが呪文を唱えると、ヴァルドが出したドルフィンは、星に……ヒトデに姿を変える。
「フロスト、すごいな。わたしの魔術に、魔術の上書きをしたのか」
ヴァルドは感嘆しながらフロストの頭を撫でる。
「これはヒトデだな。海の中の星だ。海の中には珊瑚と呼ばれる木もあるぞ」
こうして魔術で次々に氷の形を変えていく二人は……天才だわ!と親バカ上等で思ってしまう。
「ミア皇太子妃殿下、そろそろ到着ですね」
マーニーの言葉に窓へ目を向けると、港が見えてきた。遠くに見えていた客船の姿もハッキリ見えている。
「パァパ!」
「さぁ、港に到着だ」






















































