【番外編】彼の想い(5)
「ああ、ハナちゃん。いましたよね。もうすぐ十七歳になると言っていましたけど……。ノルディクス団長からしたら、妹みたいですよね」
「妹……。まあ、そうだな」
「それでそのハナちゃんから手紙が届くんですか?」
「ああ、そうなんだ」と応じ、ビールを口に運ぶ。
コスタは揚げたてのポテトを頬張りながら興味津々で尋ねる。
「え、どんな手紙なんですか!? まさか『私、ノルディクス団長のファンになっちゃいました~』とかではないですよね!?」
「いや、それがその通りなんだ」
「!?」
むせるコスタに冗談だと言いながら、ハナから届く手紙を思い出す。
その手紙には毎度、押し花のしおりが同封されている。
サンレモニアの村や森で見つけた花々なのだろう。
その花を見ることで、季節の移ろいを感じることになる。
さらに手紙には村や森の日々の小さな変化。それを見たハナの気持ちが綴られている。
それは寝る前に読むには丁度いい、他愛のない内容。安心して読むことが出来るし、気持ちが和む。
その手紙を読み、ベッドで横になると……。
景色が浮かぶ。
ハナがその目で見た村や森の様子。
動物や虫、鳥の姿を想像できる。
すると不思議とぐっすり眠れるのだ。
団長の一件があった。
しばらくは心に穴が開き、これまでの二年間とは違う、喪失の日々を送るかと思っていたが。
ハナの手紙のおかげで、その喪失の悲しみに沈まないで済んでいる。
さらに返事を書くことに時間をとられ、余計な考え事ができない。
ハナの手紙を読み、返事を書く。
次はどんな手紙が届くのかと考える。
届いた手紙にどんな返事をするかと考えることで自分は――。
団長のことが少しずつ思い出に変わっている。
つまりついこの前までは昨日の出来事のように思えていた団長との記憶が、過去のものと客観視できるようになっていた。
同時に。
そうか、あの時の自分は団長に振り向いて欲しくて、あんな言葉を言ったのだな――そんな感じで自己分析すらできた。
こうやって一つずつ。団長の思い出は過去の出来事として、心の中の宝箱へとしまわれていく。代わりに自分の中で存在感を増していくのは……ハナだった。
そんな日々が流れる中で、秋は終わり、冬となり、新しい年を迎えた。そしてハナとの手紙の中で、サンレモニアの村が雪で閉ざされ、陸の孤島になったと知ることになる。
つまり手紙は毎週のように届いていたが、それが難しくなるわけだ。
それが分かった瞬間。
とても寂しい気持ちになった。
だが――。
『ノルディクス団長! 村では冬の間、月に一度、郵便物の受け渡しを近くの町で行っています。魔術アイテムを使って。だから月に一度は、手紙のやりとりができますよね。今回は四回分の手紙を同封しました。毎週、一通手紙を読んでください。もし気が向いたらノルディクス団長も手紙、まとめて送ってくださいね!』
いつもより分厚く大きな封筒で手紙が届いたと思ったら……。
これには驚き、嬉しくなっていた。
この喜びの正体が何であるのか。
薄々気付いているが、まだ向き合う勇気はない。
完全に。
団長への気持ちの整理がついたわけではない。
出会いと同時に戦場で共に過ごした三年間。そして王宮に幽閉されている団長を想った二年間。
合計五年間。
募らせた気持ちは、そう簡単に風化させることはできない。
そう思っていたが――。
団長との記憶が、思い出として加速する事態が起きる。
団長とは因縁の関係。
つまりは宿敵だった帝国の皇太子ヴァルド・アルク・ノースクリスタル。
その皇太子が……団長の最愛だったと判明する。
村で紹介されたソルレンは、周囲や万が一の追っ手を誤魔化すためのカモフラージュだった。
さらに団長が婚姻前に子供を産むに至った理由も知ることになる。
国王陛下の策略と魅了魔術の件を、団長から教えてもらったのだ。
「いや、まさか国王陛下……。ひどくないですか!?」
騎士団の副団長であるコスタだが、さすがにこれはヒドイと嘆く。それについては自分も──。
「ああ。もし当時、その事実を知っていたら……反逆していたかもしれない」
「そうっすよね! いやー、でも。でも、その結果、団長はかつての宿敵と結ばれ、あの可愛いフロスト皇子が生まれた。しかも帝国でいろいろあった騒動は一件落着し、団長と皇太子はハッピーエンド。そう考えると、こうなることが運命だったんですかね……」
ヴァルド皇太子と既につがい婚姻を結んでいる団長は、正式な皇太子妃になった。その上で帝国で皇太子と息子と共に暮らすようになった。しかも結婚式を両国でそれぞれ挙げるというのだ。
そんな団長はお忍びでマリアーレ王国にやって来て、全てを打ち明けてくれたのだ。
もう会えないと思っていた団長との再会。
そこで自分はどんな表情をするのか。
どんな気持ちに突き動かされるのか――。
団長に会うまでは緊張していた。
だが幸せそうなヴァルド皇太子と団長。
何よりも皇太子と同じ瞳を持ち、団長と同じブロンドのフロスト皇子を見ると……。
親子なのだと一目瞭然だった。
心が乱されることはない。
喜びに溢れる三人を見て、自然と笑顔になっていた。
さらに。
いつか自分もこんな風に、最愛と子供と共に笑顔になりたいと思ったのだ。
その時。
自分の隣で微笑む最愛の姿として浮かんだのは……。
団長ではない。
妹のような存在のはずのハナだった。
そこでようやく自覚する。
自分は……ハナのことを好ましく思っているのだと。
今は陸の孤島になっているサンレモニアの村。
だが雪解けを迎えたら会いに行ける。
そうだ。会いに行くんだ。
まずはハナの両親とも会い、その次は王都にハナを招待して――。
ようやく自分の心は、春を迎える準備ができたようだ。
お読みいただき、ありがとうございます~
アニキの物語、いかがだったでしょうか!?
以前公開したハナちゃんの物語を振り返りながら
その後の二人をぜひ想像してみてください~☆彡
そして遂に明日から。
ヴァルドとミアの物語です。
しばらくは22時前後で公開しますので、お休み前のまったり時間
翌日のお好きなお時間で、お楽しみくださいませ(*^-^*)






















































