【番外編】彼の想い(4)
結論として。
団長を送ると言って良かったと思う。
だが団長からすると……「えっ」と感じる事態だっただろう。
正直。
勢いで声を上げており、頭の中は……実は真っ白だった。
ただ、「団長ですよね?」と問うことは絶対に出来ない。それをしたら今の団長の生活を壊すことになると分かっていた。
では何を話したくて、送るなんて言い出したのか。
自分自身、内心、かなり焦っていた。
そんな自分に団長は――。
「……そ、それよりも団長様は、ご結婚しているのですか!?」
なぜか恋愛の話が始まったのだ。
自分が振った話題ではない。団長が急に持ち出した話だった。その話をするの中で、自分は団長に自然とこう問いかけることができた。
「……。ミア様の旦那様との馴れ初めを聞いても?」
問われた瞬間、団長は「え、旦那?」と相変わらずとぼけたような顔をするので、そこで肩の力が抜けた。
だがその後、団長が語ったことは……。
「……ソルレンとはここではない場所で偶然知り合いました。お互いに惹かれ合い、彼を追うようにしてこの村に私も来たのです。しばらくして私の妊娠も分かり、正式に夫婦になりましたの」
これは……衝撃だった。
『夜の儀』を知り、王宮から逃げ出したはずなのに。出会って早々にソルレンと結ばれ、子供を授かっていたのだ。
しかしそうなるぐらい、好きなのだろう。
ソルレンのことを。
この事実を知ることで、自分の中で止まっていた時計の針が動き出す。
「僕は約二年前。婚約するはずでした。その婚約話が浮上した時は、天にも昇る気持ち。まさに幸せの絶頂です。ただ、それは慎重に進める必要があるからと、公にはされず。そして公にされないまま、僕と婚約するはずだった女性は……病に倒れたと聞いています。面会謝絶の状態がずっと続き、僕との婚約の話も空中霧散してしまいました」
自分がこの二年間思っていたことを、団長に打ち明けることが出来た。
この話を聞き、団長はかなり驚いている。そこに拍車をかけるようだが、自分としてはもう止まらなかった。
話すなら、今しかない。
聞いてもらえるのは、今だけだ。
「……ですがたとえ会えなくても、彼女がそこにいると思うと、とても忘れることができない。前を向くなど無理だと思いましたが……」
自分の未完だった想いは団長に伝えることができた。
もしこのまま団長に何も言わず、別れたら……。
後悔だけが残ったと思う。
気持ちの区切りもつかず、前に進むことが出来なかったはずだ。
「この村へ来たことが、いいきっかけになりそうです。……前へ進むしかありませんね」
団長へ伝えると同時に。
自分自身へも言い聞かせることになる。
そして最後に尋ねることになった。
「ミア様は今、お幸せですか?」
「はい。幸せです」
「そうですか。でもそうですよね。愛する人と結ばれたのですから」
「そう、ですね」
団長は……幸せなんだ。
せっかく掴んだ幸せ。
どうか。
末永く幸せでいてください。
そしてさようなら。
仲間であり、友であり、大好きだった団長。
本当は声を上げて泣きたい心境だった。
だが団長は明るく話を続ける。
そのせいもあり泣くこともなく、団長を送り届けることができた。
これでお別れだ。
団長とは二度と会うことはないだろう。
そう思った自分に団長は、不意打ちでこんな言葉を掛ける。
「団長様。子供ってとても可愛いですよ。心がすごーく温かくなります。団長様ならきっと、素敵なパパになれると思うのです。すぐには無理かもしれません。でも時が経ち、前へ進みたいと思えたら、進んだ方がいいと思います。どうか幸せになってください」
「……ミア……様」
堪えていた何かが一気に込み上げ、声を絞り出すことになった。
ここで男泣きするようなことがあったら、騎士として不名誉過ぎる。
深呼吸をして、気持ちを整えた。
「ありがとうございます。ミア様もどうかお幸せに」
その後は自然にそうしてしまっていた。
勝利を収め、喜びを込めたハンドシェイク。
お互いの握りこぶしをぶつけあい、手の平をパンと合わせる。
自分は「しまった!」と長年染み込んでいた習慣を出してしまったことに焦ったが、団長は笑顔のままだ。
団長がこのハンドシェイクを忘れるはずがなかった。きっと後から気づき「あ!」となるだろう。
でも。
例えそうなっても。
何もせずに立ち去る。
ゆえに団長も理解してくれるだろう。
自身が何者であるか気づかれてしまった。でも自分も含め、騎士団のみんなが何もするつもりはないと。
こうして自分の中で止まっていた二年間は、この日を境に動き出す。
そして王都へ戻り、しばらくすると。
サンレモニアの村の村長の孫であるハナという少女から手紙が届くようになった。






















































