【番外編】彼の想い(3)
二年前に村へ来た女性。
女性ながら戦士の役割りに就いている。
村人の同じ戦士の役割りの青年と結婚し、子供もいるという。
その女性を見てコスタは「驚いた」と言っていた。
なぜコスタは驚いたのだろうか?
「……様」
「… ノルディクス様」
ハッとして顔を上げると、バターブロンドの髪に、琥珀色の瞳の少女と目が合う。村長の孫で名前は確かハナと名乗っていた。
「良かったら紅茶、お代わりはいかがですか?」
「! いや、もう宴の時間だ。遠慮させていただく。お気遣い、ありがとうございます」
宴の前に、いろいろ準備が終わると村長の家に案内された。そこでお茶を出され、タリオ第二王子と村長が話していたので……。
自分はコスタから先程聞いた話を思い出していた。その際、出されたら紅茶を無意識に口に運び、飲み干していたようだ。
「ミーチェ村長、準備が完了です!」
村人の一人が報告に来た。
「では王子様、騎士の皆さん。宴に行きましょうか」
村長に促され、ソファから立ち上がった。
◇
宴には大勢の人が集まった。
村人全員と騎士団。
かなりの数だ。
それなのに。
一目見て気がつく。
暗めのブロンドに、碧い瞳。眼鏡をかけ、髪は三つ編みにしている。簡素なワンピースにショールを肩からかけ、村人の中に溶け込んでいるように見えるが……。
胸にあらゆる想いが込み上げ、言葉にならない。
以前より、少し痩せただろうか。
でも肌艶は良い。
表情もとても豊かだった。
リヴィ団長でいる時は、男らしく、キリッとすることを求められた。第一王女である時は、しとやかさを求められていたのだ。
だがどちらも彼女の本質ではなかった。
ただの村人として談笑する姿。
柔らかい笑顔。
キラキラとした瞳。
それこそが団長の本来の姿だった……。
まさか、サンレモニアの村にいるなんて。
王宮の部屋に幽閉されていると思っていたのだ。毎日のようにその方角を眺め、想いを馳せていたのに。
まったく、団長は……。
なんて声を掛けようか。
いきなり抱きしめ、プロポーズをしてしまうか。
鼓動が激しくなり、世界が輝いているように感じたが。
団長の側に近寄り、声を掛ける男性がいる。
銀髪に黒い瞳の青年。
長身であり、その体つきは……。
騎士だ。
そこで思い出す。
コスタが言っていた女性。それは団長だった。
そしてその女性についてコスタはこう言っていた。
――「約二年前にこの村に来て、村人の同じ戦士の役割の男性と結婚し、子供も一人いるそうです」
子供が……いる。
戦士の役割りの村人と結婚した……。
あの銀髪、帝国出身の元騎士と団長は……。
胸に込み上げた喜びは、急速に引いていく。
自分の知らぬ間に愛する人を見つけ、子供まで成していた……。
コスタは、自分が団長に好意を抱いていると知っているのに。
この情報を嬉々として知らせた。
団長を見つけた喜びのまま、とにかく自分に知らせたいとコスタは思ったのか。既婚者で子供がいることも、普通にコスタは自分へ知らせてしまったのかも知れないが……。
知りたくなかった。そんなことは。
一瞬、コスタのことを恨めしく思うが。
これは八つ当たりだ。
もし既婚者であり、子供がいることを知らなかったら……。
自分は再会の喜びで、暴走していたかもしれない。
つまりはいきなり抱きしめ、プロポーズしていたかもしれないのだ。それを思い止まることになったのだから、コスタを恨むのは間違いだった。
宴の席に着くと、団長は手の届く場所にいる。
その隣には、団長が子供を成すまで愛した男が寄り添っていた。
手が届く場所に団長はいるのに。
とても遠くにいるように感じる。
そして変装はしているが、自分が誰であるかバレないか。
不安なのだろう。
団長は、自分達と視線を……合わせようとしない。
自分やタリオ第二王子、コスタの方をなるべく見ないようにしている。それが伝わって来た。
団長から避けられている。
それは想像以上のダメージ。
サンレモニアの村は、来る者を拒まない。余程の悪党でない限り。受け入れるという。ゆえに戦争の避難民たげではなく、事情があり、身を隠したい者が集う場所でもある。
団長は、父親である国王陛下から、いずれかの王族と婚約し、結婚することを迫られた。そして『夜の儀』について学び、驚き、逃げ出してしまった。港で捕えられたというのは嘘。うまく追っ手をかいくぐり、この村に辿り着いていた。
いろいろと不安だった団長に、あの元騎士は寄り添い、二人は……。
子供にも恵まれた。この場所で親子三人、ひっそり生きていきたい――そう団長は願っているはず。
そこに現れた自分や騎士団は……招かれざる客なのだろう。
諦めよう。
団長は自分の手の届かぬ人になってしまった。
そう決意したが。
子供の面倒を見る必要があると、団長は宴が始まったばかりだと言うのに、席を立とうとしている。
これには思わず、言ってしまった。
「村は安全かと思いますが、レディを一人で帰すわけにはいきません。家までエスコートいたします」
お読みいただきありがとうございます!
昨晩、予定公開時刻より更新が遅れ、申し訳ありません!
公式サイトのお知らせの通り
『【解消済】小説家になろうグループ接続障害のお知らせ』
https://blog.syosetu.com/article/view/article_id/4855/。
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上記理由により、予定時刻での更新ができませんでした。
Xでもお知らせしていたのですが、公開時刻が遅れ、大変申し訳ありませんでした!






















































