【番外編】彼と彼女の恋物語(6)
失踪した団長は、波止場で捕らえられた……。
それは少し意外だった。
しかも逃走のために男装していたが、その姿はリヴィ団長。追っ手は男装した団長の姿絵を持っていただろうし、すぐにバレただろう。
団長がそんなヘマをするなんて。
でも団長は『夜の儀』の件で、精神的にダメージを受けていた。冷静な行動ができなかったのかもしれない。
それを踏まえ、俺はリカに告げる。
「病気を口実にするのは名案ですね」
「ええ、私もそう思います。病気となれば、婚約も結婚も出来ませんから、ミア王女様としても好都合です」
それは確かにそうだと思う。
思う一方で、こうも考えてしまった。
「誰にも会えず、部屋に幽閉されているのは……これまで戦場を駆け巡っていた団長には、厳しいのではないでしょうか?」
「それは私も感じています。ミア王女様はお忍びで街に行くこともあり、部屋で読書よりも、動き回るのがお好きだと思います。空を自由に飛びたいのに、鳥籠に閉じ込めるのは……。ですが元気であると分かれば、婚約と結婚となるはずです。年齢的にも」
年齢……。確かにそれはそうだ。
「そうなると静観するしかないのでしょうか? せめてノルディクス団長の婚約者になれば……。ノルディクス団長は待つと思います。強引に結婚して、団長を押し倒すなんてしないですよ」
これを聞いたリカは微笑み「ノルディクス卿なら確かに忠犬のように、ミア王女様が待てを解除するまで、我慢強く待ちそうです」と応じる。
「でも国王陛下がそれを許すかというと……下手に動き、ミア王女様が健康であると知れれば、いろいろ騒ぎにもなります。ですからもしミア王女様から合図があれば、コスタ卿に連絡します」
合図。そうだな。団長ならたとえ幽閉されても、そこから逃げ出す算段を再び思いつくだろう。
「確かに団長なら、このまま幽閉に甘んじるわけがないですよね。分かりました。もし団長からあ」
そこでいきなりリカが抱きついたと思ったら、その顔が俺の顔に近づく。
「国王陛下が内廊下を歩いています。キスをしているフリを」
そう言われ、「分かりました!」と勢いよく返事をした瞬間。
「「!」」
フリをするはずが、唇が触れてしまう。慌てて体を離そうとしたら、リカが俺に抱きつく。
胸板に、信じられない程の柔らかさを感じ、全身が一気に熱くなる。
もはや本能的にリカを抱きしめ、その唇を……。
「も、もう、大丈夫なはずです!」
息を乱したリカに言われ、俺も肩を上下させながら、キスをやめ、ゆっくり体を離すことになる。
「申し訳あ」
リカが俺の唇を指で押さえた。
視界の端にアーク近衛騎士隊長の姿が見える。
国王陛下は団長の部屋に向かったのだろう。
今日の兄貴と俺の就任式の件でも伝えに行ったのか。
国王陛下がいるのだから、アーク近衛騎士隊長がこの辺りを巡回しても仕方ない。それに逢瀬の時間は相応に与えた、そろそろ帰れ──ということだろう。
そんな考えをしつつも、リカを見ると。
「コスタ卿。今日はお会いできて良かったです。手紙を書きます。また会いましょう」
そう言って笑顔になるリカは……大人だった。
未婚で婚約者もいないリカにとって、ハプニングとは言え、俺とキスしてしまったのだ。
それはとてもショックなことだと思う。
でもそれを出さず、アーク近衛騎士隊長に目をつけられないために、恋人のフリを演じ切ったのだ。
こうして俺はリカと別れ、騎士団本部に戻ることになった。
◇
リカと婚約するきっかけ。
それはまさにこの日の出来事に起因する。
リカは完璧にあの場で対応していたが、その心中は俺と同じ。
どうしたって意識してしまう。
リカとの文のやり取りが始まり、でもそこで団長に関して報告することは何もない。では文通は終了になるかというと……。そうはならなかった。そうなるとお互いの話を手紙で書くようになり……。
リカと再会するのは、夏が終わり、秋が過ぎ、冬になってからだった。
避難民の捜索もこの冬の到来と共に打ち止めとなった。そして王都に戻ると、即リカに会うことになる。
ハプニングのキスから始まった恋だった。
でもお互いに嫌いだったらこうはならない。
だからきっとあの日の出来事は、団長が繋いでくれた運命だったと思うのだ。
「……リカ。俺、君のこと、大切にします。一生かけて、君を幸せにするつもりです。だから婚約してください」
「ありがとうございます、コスタ卿。その申し出、お受けします」
こうなるのは自然な流れだった。
俺とリカはこうして婚約したが、兄貴は……。
団長が病気ではなく、自身との婚約が嫌ではないと分かり、ようやく元気になってくれた。
だがそこで兄貴の時は止まってしまった。
王都に戻り、騎士団本部、剣の修練場、宮殿の廊下で。ふと動きを止めた兄貴が目を向ける方向は……。
王宮の蓮池に面した団長……ミア王女の部屋だ。
いつその部屋から出てくるのか。
それは誰も分からない。
合図をいつかくれるかもしれない団長を待ち、兄貴の切ない片想いが始まることになった──。
お読みいただき、ありがとうございます!
明日からは「彼の想い」全5話が公開となります☆彡
時間は22時前後で更新しますので、お休み前のひと時
翌日のお好きなタイミングでお楽しみくださいませ~






















































