【番外編】彼と彼女の恋物語(5)
俺と自身が恋人であると思わせるために。
リカは俺に会いたかったとやや興奮気味の声で告げ、ピタリと寄り添う。
こんな風に令嬢に密着されるなんて初めてのこと。
リカからは香水のいい匂いがするし、それに……。
腕に、豊かで柔らかいものが押し当てられている。
下衆な考えはしてはいけないと思いつつ、男だらけの騎士団での人生が長い俺に、これは刺激的過ぎた。
「……コスタ卿」
「は、はいっ!」
「血が」
「えっ!?」
「鼻血が出ています……!」
男というのはなんて分かりやすい生き物なのか。
異性の体に分かりやすく反応し、鼻血まで出すなんて。
だが……。
鼻血を止めるため、パーゴラに着くと、リカは俺をベンチに寝かせた。その上で自身の美しいレースのハンカチを差し出し、膝枕をしてくれたのだ……!
これは鼻血がさらに出そうだったが……。
万が一にも見られているかもしれない。
そう考えたリカは、俺の手を握り、頭を優しく撫でてくれたのだ。
膝枕をされ、そんな風にされると……。
興奮より、癒しだった。
夏の陽射しはパーゴラに茂る葉で隠され、蓮池の方角から吹く風は、少し涼しい気がする。
完全に和み、鼻血も止まり、ようやく話せる状態になった。
心地よい膝枕は終了となり、ベンチで横並びに座り、話をすることになる。そこで俺はここに来た理由をリカに打ち明けた。
するとリカからは思いがけない答えが返ってくる。
「私は今、ミア王女様の侍女ではないんです」
「えっ……!」
「ミア王女様の、双子の妹達の侍女になりました」
そしてリカはそうなった経緯を話して聞かせてくれた。勿論これは、内密な話だ。
「つまり団長は、王都に戻ってから婚約者を作るよう国王陛下に迫られ、連日『夜の儀』について学ばされていたのですか?」
「はい、そうなんです。でも『夜の儀』なんて、結婚式の日取りが決まってから学ぶのでも遅くはありません。いきなり男女の濃密な営みについて叩き込まれたミア王女様は……結婚や婚約者を作ることが、嫌になってしまったのではないでしょうか。それでも王女に生まれたからには、嫁ぐと命じられたら、従うしかありません」
これは衝撃的な情報だった。
でも何となく団長の気持ちは分かってしまう。
なぜなら団長は、深窓の姫君ではない。男ばかりの騎士団の中に身を置いていたのだ。そしてみんな、団長の正体を知らないから、素の姿で接していた。
そんな姿を見ていたら、色恋沙汰の気持ちは生まれず、むしろ仲間として見るようになるだろう。何というか、兄弟のように思えたはずだ。
男性をそんな風に見ているのに。
いきなり『夜の儀』について叩き込まれたら……。
「我慢の限界だったようです。王都では平和条約締結記念舞踏会もあり、お祭りのような雰囲気で、皆、浮かれている部分もありました。気も緩んでいたのでしょう。そんな隙をついて逃げ出してしまったのです」
「ちなみにですが、団長……ミア王女様は、ノルディクス団長との婚約が嫌で、彼との『夜の儀』が想像出来なくて、逃げ出したのでしょうか?」
もしそうならノルディクス……兄貴に、なんて伝えればいいのだろう。俺は内心でとても焦っていたが……。
「ミア王女様の婚約者候補の筆頭。それはノルディクス卿であると、噂には聞いていました。ですがどうもそれ以外の最有力候補がいたようです。そしてそのお相手は、ミア王女様が『無理だ。絶対に無理だ』と思わず呟くような相手だったようです」
「団長がそんな呟きをするなんて……よほどの相手ですよね?」
「そうですね。もしかするとものすごい歳の差がある、他国の王族だったり、生理的に受け付けない殿方だったのか……。もし相手がノルディクス卿なら、散々照れるでしょうが、逃げはしないと思います」
これを聞けた俺は、大いに安堵することになる。
兄貴もこれで苦悩から解放されるはずだ。
「それで団長の病気はどんな感じなんですか? 実はノルディクス団長はお見舞いとして、わざわざポーションを入手したんです。それを渡したいというのもあり、団長……ミア王女様に何とか会えないか、中庭に忍び込んだのですが……」
「そうだったのですね。私はもはやミア王女様の侍女を外されているので、詳しい状況は分かりません。ですが南のメデタリアン海にある波止場で見つかったとか。その後、王宮に戻ってからは……。二度と逃亡ができないよう、事実上の幽閉状態です」
「えっと、病というのは?」
そこでリカは、それこそ機密情報だからだろう。俺の耳元に顔を近づけた。
またも香水の匂いと、リカの体温を感じ、心臓が跳ね上がる。
「ミア王女様はご病気ではありません。失踪の件はその理由を含め、王室として秘匿したいこと。それに幽閉しているとなれば、何のためにと理由を説明する必要も出てきます。誰も近づけず、真相を話さないで済むには、病気とするのが一番ですよね? 面会謝絶にできますし、病状について詳しく話さなくても許されます」
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