【番外編】彼と彼女の恋物語(3)
王宮で闘病中の団長に会いに行く。
団長は喜んで会ってくれる。
そう考えていた。
だが王女付きの筆頭侍女長にお見舞いを申し出ると──。
『面会謝絶となっております。申し訳ありません。お見舞いの花や品はこちらでお預かりし、王女様の部屋に、届けさせていただきます』
もし王女として王宮にではなく、団長として騎士団本部にいれば。
兄貴も俺も気軽に会いに行くことができた。
でも団長は戦場ではなく、王都にいる時は第一王女で過ごすことが基本。そして今は病気であり、王宮にこもっている。
そうなると突撃訪問など許されず、事前に打診が必須。王都に戻ったその日に、兄貴が見舞いを申し出ると……。丁重なお断りの手紙が筆頭侍女長から返ってきたのだ。
「ノルディクス団長、ここは婚約者として、公爵家として申し出てみては? 表向き、騎士団と第一王女との接点はゼロ。それなのにお見舞いに行くのは……。だからこそ、お断りだったのでは?」
「なるほど。それは一理あるな。自分は婚約者……に決まったわけではない。団長が病に伏せ、その件はペンディングになっている。よってここは公爵家として、お見舞いを申し出てみる」
兄貴が手紙を早速書き始めると、なんと彼の父親からストップがかかる。
「第一王女の病は重い。王族でも、会うことが出来ているのは、国王陛下夫妻のみ。王太子や第二王子、双子の妹君達でさえ、会うことができていない。それなのに第一王女がお前に会うはずがないだろう。……婚約の件は完全に宙に浮いている。ここだけの話、第一王女がこのまま儚くなる可能性もあるんだ。深く関わらない方がいい。辛い思いを……するだけだ」
こう言われては、兄貴も俺も諦めるしかない。さらに兄貴の父親は「騎士団長に任命されるんだ。職務を全うすることに集中した方がいい」と言うのだ。
それはきっと兄貴が第一王女のことを……団長のことを、あれこれ考えないようにするためだろう。
というかリヴィ団長。
最後に見かけた団長は、健康そのものだった。
いきなりそんな病にかかるなんて……。
一体どんな病気なのか。
その情報すら入ってこない。
お見舞いができないなら、せめて手紙を読んでもらえないかと兄貴は考えたが……。
「手紙なら大量に届けられている。その中に埋もれるだけだ。それに一日中ベッドで横になっている状態と聞いている。山のように届いている手紙。目を通すことはないだろう」
父親からそう言われた兄貴は、手紙を書くことも諦めた。こうなると万策尽きたと、すっかり沈み込んでいる。明日は国王陛下と謁見し、新団長に任命されるというのに。
兄貴は俺より年上だし、頼れる存在だった。
でも団長が失踪したと伝えられた時。
自分のせいではないかと心配していた。
だが病気だと分かり、元気になるのかと思ったら……。
団長への見舞いは叶わず、話すこともできなかった。やはり自分に非があったのではと……兄貴は落ち込んでいる。
何よりも。
見舞いの品を用意していた。
俺は仕留めた巨大イノシシの牙で、お守りを作った。表面に古代語で狩りや戦での安全を願う言葉を彫り上げた手作りの品だ。
団長に大きなイノシシを仕留めろと言われ、頑張った結果。そこそこのサイズのイノシシを狩ることが出来た。その成果をお守りにして、団長に渡すつもりだった。
一方の兄貴は、ノースクリスタル帝国からポーションを手に入れている。ポーションは優れているが、すべての病を癒せるわけではない。
兄貴が手に入れたポーションも、病を完治させることが出来るわけではなかった。それでも落ちた体力を回復させ、寝たきりから起き上がるぐらいの効果はあるのだと言う。
そんなポーションなのだ。値段は……。
兄貴は「そうだな。団長と婚約したら、新居を探すつもりでいた。その費用をポーションに回した……つもりだ」なんて言ったのだ!
それはものすごい値段だと思う。
でもそれだけの大金を動かしてもいいと思えるぐらい、兄貴は団長の身を心配していた。そしてその心配は、団長を好きだからこそ、しているのだろう。
兄貴はポーションを、一度は王女付きの筆頭侍女長に預けることも考えた。でも断念したのは、お見舞いの品は実際のところ、団長には届けられていないと知ったからだ。
「菓子類など届けられたが、王女は食べる元気もないんだ。王宮付きの使用人に配られ、食すことになったと聞いている。本は王宮図書館に寄贈。花は王宮内の各部屋に飾られた。ポーションは毒見も必要となるが……懸命の治療をしているだろうし、ポーションは既に試しているはずだ。飲ませることはないだろう」
それを教えたのは、またも兄貴の父親だった。
俺の見舞いの品は諦める。
でもせめて兄貴が用意したポーションは、団長に届けたいと思った。
直接団長に渡すことができれば、絶対に飲んでくれる。
兄貴の想いを無駄にしたくない……と思ったのだ。






















































