【番外編】彼と彼女の恋物語(2)
失踪した第一王女……団長の捜索は公にされず、水面下で進められた。だがその捜索は呆気ない形で終わる。
「コスタ。団長が見つかったそうだ」
「え、そうなんですか!?」
平和条約締結記念舞踏会が行われた翌日の夕方に伝書鳩が届いた。
伝書鳩が運んだ手紙。
そこに書かれていたことは――。
「団長はどうやら重い病を発症し、地下室で倒れていたらしい。なぜそんな場所にいたのか。それは書かれていないが、ともかく病気であるため、王宮で療養となる。それを踏まえ、自分がマリアーレクラウン騎士団の団長に任命されることになった……」
団長不在は許されない。副団長であるノルディクスが団長へ任命されるのは、しごく自然な流れだった。
「コスタ、君が副団長を拝命することになる」
「!? 俺ですか? いいんですか!? 団長から『お前はまだ早い、コスタ』ってどやされま……」
そこで言葉を呑み込む。
団長が……俺をどやすことはない。
王宮で病に伏せる団長が、俺の前に姿を見せることはないのだ。
その事実に、心の中にぽっかり穴が開いた気持ちになる。
ノルディクス……兄貴との婚約がイヤで失踪しているなら。
団長のことだ。
どこかでうまく何とかやっていると思う。
いくら恋愛対象にならなくても、逃亡しなくてもいいでしょう、団長! 兄貴から魂が抜けちまいましたよ!とツッコミたい気持ちまで沸いていた。
失踪しても、団長は元気に違いない。
だって最後に見た団長は、健康そのものに見えたから……。
だが病。
どんな病気かは分からない。
でも団長職を辞すぐらいなのだから、相当重いのだろう……。
そこでチラリと兄貴を見ると、その顔はもう騎士団が全滅したような表情になっている。
「副団長……ノルディクス団長。その……リヴィ団長のこと、好きなんですか?」
兄貴と団長の間に縁談話が出ていると聞いた時。
副団長であるノルディクスと団長が婚約!?という方で頭がいっぱいとなり、当事者の気持ちまで考えていなかった。
だが今の兄貴の表情を見たら……。
思わず聞いてしまっていた。団長のことを兄貴は好きなのか――と。
「……そうだな。自分はリヴィ団長のことが……好きだった。第一王女でありながら、男装までして戦場で戦う。しかも剣神と呼ばれる帝国の皇太子相手に、一歩も引かずに挑む姿に……憧れから恋心に変わっていた」
「まさかそっちの姿のリヴィ団長に惚れたんですか!? たまに王宮に戻り、第一王女の姿の団長を見て、好きになったのではなく!?」
すると兄貴が滅多に見せない程、顔や耳を赤くした。
「も、勿論。第一王女の時のリヴィ団長は……女神のような美しさだ。惚れない方が無理だと思う。……だが見た目うんぬんより、自分はリヴィ団長の生き様が好きだったんだ」
「……そうですか。ならリヴィ団長と一度腹を割って話したいですよね。縁談話、婚約の件、どう思っているんですか――って」
「リヴィ団長は重い病なんだ。婚約どころではないだろう。それに王家から持ち込まれた婚約話。いくら公爵家でも、催促はできない。それに……」
驚いた。
兄貴の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「自分との婚約が嫌で、病気になったのかもしれない」
「いや、ノルディクス団長、それは違うかと。結局、失踪していたわけでもなく、ただ具合が悪くなって倒れていただけだった。ノルディクス団長との婚約が嫌だなんて、リヴィ団長は一言も言っていませんよね?」
「それは……」
兄貴は涙を手の甲でごしごし拭い、俺を見える。
「戦場で過度な思い込みは危険だって、ノルディクス団長、いつも言っていたじゃないですか」
「……そうだな」
「どの道、団長と副団長に任命されるため、王都に戻りますよね? 戦時中なら通達が来ただけで、なし崩し的に物事が進みます。でも今は違う。宮殿で国王陛下による任命式が行われる。ならばリヴィ団長のお見舞いをしましょうよ。で、聞いてみるべし!です」
俺の言葉に兄貴の顔には、希望と不安が入り混じる。
「まあ、そこで。両想いなら万々歳じゃないですか。もし『すまない、ノルディクス。君のことは仲間にしか思えない』と言われたら……。仕方ないですよ。その日は俺のおごりでしこたま飲みましょう」
「……そうだな。王都へ戻ったら、リヴィ団長のお見舞いに行こう」
お読みいただき、ありがとうございます。
コスタ、いい奴なんです。






















































