【番外編】彼と彼女の恋物語(1)
「団長が……第一王女が、王宮から姿を消した……?」
マリアーレクラウン騎士団の副団長であるノルディクスから、団長失踪の話を聞いた時。
その騎士団に所属する俺、コスタは、まさに青天の霹靂な話に驚愕することになる。
◇
百年戦争と言われる長きに渡る戦いが終結した。
広大なサンレモニアの森に隠れている、マリアーレ王国、ノースクリスタル帝国、それぞれの国の避難民。彼らを国に帰らせるため、捜索活動をしている折、国王から帰還の指示が出た。第一王女でありながら男装し、リヴィ団長として生きるミア・ソフィア・マリアーレに。
「ノルディクス。父上が帰還せよとの命令だ。明朝、ここを僕は立つ。用件が済めば戻って来るつもりだが、任せてもいいか?」
団長だけど、その団長が兄貴分として慕う副団長のノルディクス。
彼は心配そうに団長を見て、尋ねる。
「勿論です。……何か問題でも?」
ノルディクス……兄貴は朴訥で真面目。
心配そうに団長を見る兄貴を元気づけようと、俺は冗談でその場を笑わせることにした。
「あれじゃないですか、遂に縁談話じゃないですか~」
「まさか。そんな話のために、わざわざ呼び戻すはずがない!」
団長は即否定。
「でも団長、十八歳でしょ。そろそろその年齢ですよ」
「ない、ない、ない!」「えー、どうでしょうか」
団長と俺のボケとツッコミで笑いが起き、兄貴も苦笑している。
いつも通りだった。
戦場というシリアスが多い場所では、笑いが必要。
こうやってこの三年間。
団長と兄貴……ノルディクスと笑い合って過ごして来た。
「すぐに戻るよ。あ、コスタ。お前も僕に負けないサイズのイノシシ、捕らえておけよ。あのサイズが手に入れば干し肉にもできるからな」
団長は気軽な様子で翌朝、王都を目指し出発。
残された副団長であるノルディクスや俺達騎士団は、避難民の捜索を続けていた。
そして平和条約締結記念舞踏会が、王都で行われる目前に届いた伝書鳩による知らせ。それが団長の失踪の知らせだった。
「団長が……第一王女が、王宮から姿を消した……?」
驚く俺にノルディクス……兄貴は、実に暗い表情で話を続ける。
「国王陛下は、団長……ミア第一王女の失踪を公にしたくはないそうだ。ただ、王女の姿で失踪した可能性は低い。団長の姿か男装している可能性の方が高い。万が一にも騎士団を頼り、この近辺に団長が姿を現わしたら……捕えよとの王命だ」
「な……捕えるって……! 団長を!? ここにいる騎士団は全員、団長と生死を共にして戦った者達なんですよ? 俺達全員、仲間でしょう? 団長だって、仲間だ。仲間を捕らえるなんて、そんな……」
俺の言葉に兄貴は唇を噛み、眉間を苦しそうに歪めている。
「……団長は賢い方だ。のこのこと自分達の前に現れることはないだろう。それに……」
その時の兄貴は、戦場でも見せたことがない絶望的な表情をしている。
「な……副団長、どうしたんですか!?」
「縁談話が出ていた」
「エンダンバナシ?」
兄貴が発する言葉の意味が分からず、しばし固まってしまう。
「団長と自分の縁談話が出ていたんだ」
「え……男同士で?」
「違う! 団長の本来の姿である第一王女と、公爵家の次男であり副団長の自分との婚約話が」
衝撃だった。
団長と副団長が婚約!?
二人は戦場の絆で結ばれた仲間だと思う。
色恋沙汰の関係とは程遠いと思った。
「コスタ……。君もそう思うか」
兄貴はまるで俺の心を読んだかのように話し出す。
「団長もきっと驚き、そして……自分と結ばれるのは無理だと思ったのだろう。だが王族の結婚に自由なんてない。国王陛下が命じれば、団長はどんな相手だろうと、その男の元に嫁ぐしかないんだ」
そこで俺はハッとした。
兄貴はこの世の終わりのような顔をしたまま話し続ける。
「団長は……自分との婚約なんて考えられなかった。でもそれは避けられない。だから……姿を……消したのだと思う。自分とは今、最も顔を合わせたくないはずだ。だから団長はここへは現れないと思う……」
兄貴が絞り出すような声でそう告げた。
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