【番外編】突然の来訪者(13)
ヴァルド皇太子はつがい婚姻で結ばれたミア皇太子妃とは劇的な出会いを果たし、強烈な一目惚れを経て結ばれた──そう密偵から報告を受けていた。
そして確かに昨晩、それを感じさせる言動をナディアは目撃している。
その気持ちは絶対であり、国益のためと自身を公妾に迎えても、それは形だけ。疎まれ、寝室に呼ばれることはないだろうと思っていた。
だが目の前にいるヴァルドは「……ミアは耐えられているが、ナディア嬢はどうだろう? わたしはミアと閨に入れば朝まで……というのが当たり前だが」と言い出したのだ。
にわかには信じられないわ。
このクールそうに見えるヴァルド皇太子が、朝まで皇太子妃を抱き潰すなんて。
「君を公妾と迎えることで、ミアの体も楽になるだろう。彼女は子育てもあり、大変だからな。君の活躍の機会は相応にあるだろう」
その言葉を聞いたナディアの顔は青ざめそうになっている。
聞いていない、そんなにとは!
わたしに手を出すことはないと思ったのに!
「君の風の精霊の力。灯油の件。とても魅力的だ。だが同時に。わたしの要望に応えられるか。それも重視している」
「それは……」
「試させてもらおうか」
そこでヴァルドが立ち上がった。それを見たナディアは身を固くする。
「ヴァルド皇太子殿下、た、試すとは何を!?」
「そんなこと、皆まで言わずとも分かるはず。公妾になりたいのだろう?」
それはあっという間の出来事。ナディアはヴァルドに肩から担がれている。
「殿下、おやめください!」
「なぜ? 君はわたしの公妾になるため、帝国に乗り込んで来た。……違うのか?」
最後の方の声の冷たさに、ナディアは凍りつく。
クールなヴァルドではあるが、ここまでの冷たい声を掛けられると思わず、ナディアは震撼していた。
「きやあっ」
応接室に通されたと思っていたが、違っていたことにナディアは気がつく。さっきまでいたのは前室。今は寝室に連れて行かれ、天蓋付きベッドに放り出されたのだ。
「体は男をそそるに足る。だが実際、男を悦ばせることが出来るのか。見せてもらおうか」
ヴァルドはそういうとベッドのそばの一人掛けチェアに腰をおろし、その長い脚を組む。
宝石のようなアイリス色の瞳は、人を見ている目ではない。物を見るような目でナディアを見ている。それはまるで新しい武器の性能をただ確認するためにそこにいる──そんな風に見えた。
つがい婚姻で結ばれた最愛には、絶対に見せない眼差しであると、ナディアはすぐに理解する。
公妾とは言うが、強い欲求の捌け口として利用できるかどうか。その確認をしたいだけなのだと。
「その布面積の低い服。もはや着ていないも同然だが。脱いでみろ」
事務的な口調で、そこに感情はない。
欲情している様子も皆無。
道具のように見られる自分が、怒りや悲しみより、なぜか無性に恥ずかしい。
祖国では「ナディア嬢は美しい」「ぜひ息子の嫁に」と言われていたのに。ヴァルド皇太子は、ミア皇太子妃以外は捌け口にしか見えないというの!?
「君の服を脱がせるなんて、面倒であり、手間でしかない。わたしの手を煩わせないで欲しいのだが」
心底ウンザリしている様子のヴァルドの声に、ナディアは凍り付く。
こんなはずではなかった。
「君を抱くつもりはない」と冷たく言われるものと思っていたのに……。
ナディアが後悔の念に苛まれていると。
「手間のかかる女だな。昨晩の威勢はどこへ行った?」
呆れたヴァルドが、こちらへと歩いて来るのを見たナディアは、複雑な心境だった。
ヴァルド皇太子の体は、どう見ても素晴らしく、抱かれたら極上だろう。
でも道具のように抱かれるのは嫌だ。
そもそも彼に抱かれることは想定外。
ナディアは近づくヴァルドを見て、ベッドから降り、逃げ出そうしていた。
それはもう本能的にその行動をとったのだが……。
「公妾になるというのは、嘘だったのか?」
ヴァルドに腕を掴まれ、ナディア焦る。
「う、嘘ではありません」
「ならば今すぐに服を脱ぎ、わたしを誘う仕草の一つでもしてみせろ」
平坦な声で言われ、ますます惨めな気持ちになりながら、ナディアは口を開く。
「お待ちください、ヴァルド皇太子殿下。私は、その、初めてなんです。そんな強引な」
「だから?」
「え……」
「君が初めてだろうと、そうでなかろうと、わたしは興味がない」
そう言うとヴァルドが身に着けているベールを強引にはぎ取った。
その瞬間。
ナディアは叫ぶ。
「お、おやめください、殿下!」
「やめる? なぜ?」
「そ、それは……」
「公妾になりたいと突然いいだし、父上や公爵家の人間たちを混乱させ、わたしの最愛を傷つけておきながら。今さら『やめろ』、だと?」
尤もな指摘にナディアは口をパクパクさせることしかできない。
するとヴァルドが強引にナディアの腰を抱き寄せる。
「公妾になりたいというのは本意ではないのか」
「ち、違っ」
そこでいきなり太腿を持ち上げられたナディアは目を大きく見開く。
「本意だというのなら、このままここで処女を散らすがいい」
「そんな、殿下!」






















































