【番外編】突然の来訪者(11)
「ヴァルド、そろそろ朝食に向かう準備をしないと」
「その必要はない。父上とは平行線。交渉は決裂している。わたしが公務を放棄したら、そこで少しは考えを改めるだろう。サンレモニアの村にいた時は、それでも水面下で動いていた。だが今回は一切何もしないつもりだ。……朝食はミアの部屋に用意させる。二人きりだ。バスローブで構わない」
「そんなヴァルド……あっ」
そこからはヴァルドのこれまで以上の激しい動きに、思わずその背中に爪を立ててしまう。
朝から濃厚な時間をヴァルドと過ごし、そしてようやくヴァルドの熱が収まり、バスローブを着て寝室へ向かうと……。
ソファの前のローテーブルに朝食が用意されていた。だがそれはトレンチに載せられている。
「このままベッドで食べよう」
戦場でもないのにベッドで朝食を摂るなんて!
だがヴァルドはティーポットからカップに紅茶を注ぐと、そのまますぐ、トレンチを手にベッドへ向かう。
こうして心身共に満たされ、最愛とベッドで朝食となった。
「ヴァルド、ナディアの件は……」
「あの女がどんなことを言い出すかの一つに、わたしとの結婚を持ち出す可能性は想定していた。だからこそ謁見の際、フロストを同席させることにしたんだ。わたし達の間に、入り込む余地はないと見せつけるために。ミア、分かっているだろう? 答えは一つ。『ノー』一択だ。わたしはミアがいればいい。ミア以外は不要だ」
これにはもう嬉しくて頰が緩んでしまう。
それにこの強い喜びはヴァルドに伝わり、再び……となりかけたが、そこはストップをかける。
朝食の最中だし、今は話をしたい。
「風の精霊の力、灯油ランプ……ナディアがもたらす恩恵は大きいわ。それなのに断って、本当にいいのですか?」
「父上も五人の公爵もそうだが、皆、あの女の手中に転がされている」
これには驚き、どういうことか尋ねると……。
「まず灯油。ナディアが独占販売権を持つわけではない」
「!」
「金はかかるだろう。だが灯油を手に入れることはできる。それに風の精霊の力。どうしても必要なら、未婚の嫡男がいるバジル公爵家に、ビューネの一族を迎えるのでも構わないんだ」
冷静に言われると、全てその通りだった。
「ナディアは策士だ。ミアの父親のようなタイプとも言える。そして昨日のあの演出は完璧だった。夜空に浮かぶ灯油ランプの明るさ。それをできるナディアの力。その全てが公妾として迎えるだけで手に入るんだ。そこに目が行き、他の選択肢なんて、頭から吹き飛ぶ」
フルーツサラダを口にしながらそう指摘するヴァルドに、痺れそうになっている。
言われてみれば、実にシンプルな話。代替案はあるのに、そんなものはないと、すっかり思い込む事態になっていた。
「何より、あのナディアという女は真意をまだ話していない」
「えっ……ヴァルドのことが、好きなんですよね?」
するとヴァルドは苦笑する。
「これでもわたしはいろいろな令嬢から好意を向けられた過去がある。本気でわたしを思う表情。政略結婚だが、相手が皇太子なら悪くないという顔。完全にわたしのことより、皇太子妃を望む令嬢もごく僅かだがいたんだ。そしてあのナディアの目は……わたしに好意はない」
「えっ、ヴァルドを見て恋に落ちない令嬢がいるのですか!?」
「それはいるだろう。わたしにゾッコンのミアには理解できないかもしれないが」
ヴァルドが私を抱き寄せ、首筋にキスをする。あやうくパンを落としそうになるが、それは見事にヴァルドがキャッチしていた。
「ナディアは人心掌握も上手く、策士であり、自己演出も優れている。あれであれば女傑、女王になれるだろう。それなのに公妾になりたいなど言い出した。あり得ない話だ。隠された真意がある──それは間違いない」
「隠された真意……。ヴァルド、ごめんなさい。実は昨晩……」
私はランド一族の青年が宮殿に忍んできたことを明かす。
「なるほど。見えてきたぞ。ミア、その男が現れた場所に、連れて行ってくれ」






















































