【番外編】突然の来訪者(7)
晩餐会の席に登場したナディアは、やはり露出の多い祖国の民族衣装を着ており、五つの公爵家の当主達を赤面させた。
謁見の間で着ていた衣装をさらにゴージャスにして、パレオのような布のスリットがより深くなっている。歩く際には太腿が見えることだろう。
着席してしまえば、太腿は見えなくなる。
見えない太腿を妄想させ、男性陣を刺激することも……間違いないだろう。
さらに公爵達は自身の嫡子を伴っていたが、こちらはもうナディアから目を離せない状態。
若さゆえにそちらの欲求も強い年頃の者もいる。
イザークはかろうじて踏み止まっていたが、後は分かりやすく鼻の下を伸ばしている。
一方のヴァルドは……。
完全に先程までの熱が残っている。
つまりは不完全燃焼。私を欲しい気持ちが高まった状態のままだった。アンニュイなため息をついて私をじっと見るのだ。ナディアのことなど眼中にない。
そんなヴァルドに見つめられる私は……。
私の体にはまだヴァルドの余韻が残っており、もう甘美な痺れが駆け抜けて大変!
皇帝陛下夫妻は、全員がそれぞれの思惑で落ち着かない状態なのだけど「一体全体皆、どうしたと言うのだ……?」という顔をしている。
そんな浮き足立つ状態で、晩餐会はスタートした。
最初はまさに儀礼的に進んで行く。
皇帝陛下が挨拶し、ナディアがそれに応じて挨拶をする。さらに順番に五つの公爵家が紹介されながら、食事が進行する。
ナディアは今回の真の来訪目的を、晩餐会の場で話す――そうヴァルドは言っていた。さらにはまだ献上していない品を披露するとも。そして献上品の件は、本人も晩餐会の場で話すと明示している。
だがメインディッシュの登場前後で、ナディアに動きはない。
そうなると……。
デザートの後に、まさに電撃発表のごとく、動くと思えた。
そこに二種類のストロベリーケーキの盛り合わせが登場。
皇宮のパティシエのスイーツはいつも美味しいが、今が旬のストロベリーを使ったスイーツは本当に甘くて美味しい。
つい、そちらを食べるのに夢中になっていた。だが丁度デザートが終わり、紅茶が出た時。
「皇帝陛下夫妻、皇太子夫妻、並びに公爵家の皆様に、献上したいものがございます」
ナディアが改まった様子で声を上げ、ヴァルドは「来たか」という様子で彼女を見る。
その表情はナディアが何を言い出すか、興味を惹かれているように思えた。
たったそれだけで、ヴァルドの溺愛を忘れそうになる。
私、いつからこんなに弱くなったのかしら?
フロストだっているのだ。
気にしない!
私がそんなことを思っている間に、晩餐会の会場には、砂漠の民の民族衣装を着た沢山の男達が入って来た。その様子は、謁見の間の時と同じだ。
違うのは……。
皆、手に何かを持っている。
しかしそれが何かは分からない。
なぜなら布を掛け、見えないようにしているからだ。
「皇帝陛下、このまま彼らを庭園に出しても良いでしょうか」
「よかろう」
庭園に面した窓が開け放たれ、男達が出て行くと……。
「それではご覧ください。サンド共和国の叡智を」
男達の何人かが、民族楽器を奏で、そしてナディアが呪文を唱える。
すると男達が手にしている布が宙に舞い上がる。
その手に持っているのは、眩ゆい光を放つランプ。
「これは……」
その場にいた全員が驚愕している。
この世界にあるランプは、通常ここまで明るくない。これは従来の植物や鯨油を使ったランプではないと思う。
「ご覧ください。この明るさを。サンド共和国では古来より黒い油が砂漠の地表近くから採掘され、建築や防水で利用されてきました。ただ、明かりのために用いると煤が激しく出る。そのため研究を重ねたのです。今となってはこの通り。蒸留技術を確立し、ランプを灯すための油――灯油というものを作り上げました」
なるほど。あれは灯油ランプなんだ。
砂漠の国……すなわちサンド共和国の辺りでは、昔から原油が採掘されていた。ただ、ナディアが言った通りで、精製されていない原油をランプに使うと大量の煤が出てしまう。
でも灯油に精製することで、煙も煤の量も少なくなる。しかもこれまでのランプと違い、安定した燃焼で、長時間強い明かりを提供できる。
まさかその技術をサンド共和国が作り上げるなんて。
この世界で産業革命が起きたようなものだ。
明るさは人類の進化を加速させるはず。
チラリとヴァルドや皇帝陛下、そして公爵達を見た。
全員が、ナディアが見せた灯油ランプに目が釘付けになっている。
「我が一族は風の精霊と契約をし、こうやってこの灯油ランプを空に浮かべることもできます」
その瞬間。
それは前世で言うなら、まさにランタンフェスティバルのようだ。空に浮かぶ灯油ランプは、ただそれだけで美しく、幻想的。かつ夜を照らす明るさは、治安や軍事の面でも得難いものだろう。
「この灯油の採掘権を私は所有しています。そしてこの風の精霊の力を所有しているのです」
話が見えてきた。
この灯油を帝国に提供してもいい。
その代わり。
風の精霊の力を持つ自身を、次期後継者として、帝国に認めて欲しい。
これこそが、今回の来訪の真の狙いのはず。
この場にいた帝国の人間は皆、そう思ったはずだ。
だがナディアは……誰もが想像しない提案を口にする。
「私を帝国の未来であるヴァルド皇太子殿下の、公妾に迎えてください。さすればこの灯油と風の精霊の力は、帝国のものとなります」
ナディアは悠然と胸に手を当て、頭を下げた。
お読みいただき、ありがとうございます!
挿絵として登場している二種類のイチゴのケーキ。
とても美味しそうですよね。
添えられているソースも含め、「いただきます!」と食べたくなります。
が!
なんと!
こちら食品サンプルなのです!!!
老舗の食品サンプル製造メーカーである「株式会社いわさき」様に、ご提供いただきました!
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