【番外編】突然の来訪者(6)
この大陸では単刀直入な物言いより、婉曲な話し方が好まれている。
特に儀礼の場ではその傾向が強い。
ゆえに献上品の披露が終わると、ヴァルドはナディアに遠まわしに帝国を訪れた理由を尋ねた。
対するナディアの答えは……。
「殿下と妃殿下を祝うこと。それが一番の来訪理由です」
そう言って妖艶に微笑む。
だがその黒目がちな瞳の奥には、何とも意味深な含みを感じさせる。
真意はあるが、それを話すつもりはない。
ヴァルドはどう出るかと思ったが……。
「素晴らしい祝いの品々に感謝する。わたしも。わたしの最愛と息子も。この贈り物を喜んで受け取ることにしよう」
そう言うとヴァルドは、フロストを抱きかかえている私の額へ堂々とキスをしたのだ……! しかも続けてフロストにも。
これは自身の想いをナディアに見せつけるようなものであり、どうしてこんな公の場で!?と思うものの。ヴァルドと私の婚約を祝うため、わざわざやって来たのだ。今の行動で、私とのラブラブぶりと、息子の誕生を心から嬉しく思っているということは……ナディアには強く伝わったはずだ。
一方のナディアはそんなヴァルドの様子をニコニコと見守っているように見えるが……。
やはりその黒目がちな瞳の奥には、何とも意味深な含みを感じさせる。
だが。
「お納めいただけて幸栄です。それでは晩餐会の場でまた」
「ええ。また晩餐会の席で」
表面的にヴァルドとナディアは笑顔で謁見を終えたが……。
フロストはじっとしていることに飽きたのか。
謁見の間から出ると、走り回って遊びたがった。
そこでマーニーにフロストを連れ庭園へ向かうようにしてもらい、私は部屋までエスコートしてくれるヴァルドと話すことになる。
「ヴァルド、真意を聞き出せませんでしたね」
「そんなことはない。ナディアは晩餐会の席で、全てを明かすつもりのようだ」
「! そうなのですか!?」
そこでヴァルドはフッと口元に笑みを浮かべる。
「なかなかのものだ。後継者候補の一人なだけある。肝心の目的と、まだある献上品。この二つは最もドラマティックになる場で披露するつもりだろう。皇帝陛下夫妻と五つのの公爵家が揃う晩餐会の場は、プレゼンテーションには持ってこいだ。一番効果があるその時まで、秘匿するつもりということだ」
「な、なるほど。そういうことだったのですね……」
やはりそういう政治的な駆け引きに私は慣れておらず、そこまで読み取ることができなかった。
というか……。
ヴァルドが「なかなかのものだ」とナディアを褒めたこと。
そこが気になってしまう。
結局、ヴァルドが私を好きになったのも、見た目ではなかった。
何せ私と出会った時、私は男としてヴァルドに対峙していたのだ。
しかも宿敵。
私の物怖じしないところ。負けまいと切り込むがむしゃらさに、ヴァルドは興味を持ってくれた。
ヴァルドはその人の生き様に、惚れ込むタイプだと思う。
ということはナディアは政治力のある女性として、ヴァルドには魅力的に見えるのでは?
「ミア、何も心配する必要はない。どうせ後継者として自分を認めろ、支援しろと言い出すだけだ」
つがい婚姻による共鳴。
私の不安はヴァルドに伝わる。
でもその不安が……嫉妬であることに、ヴァルドは気付いていない。
「ヴァルド」
「どうした、ミア?」
「……抱いてください」
晩餐会まで時間はある。
ヴァルドは執務があると思う。
けれどこの不安が吹き飛ぶぐらい、ヴァルドの愛を感じたくなっていた。
それに……純白の軍服姿なのだ、今のヴァルドは。
「ミア……。最愛の求めには全力で応じるものだ。しかし試練だな」
ヴァルドが熱いため息を漏らす。
「時間的に一度だけだろう。さすがに晩餐会には遅刻できないからな」
「ヴァルド……」
「ミアから誘われるなんて、初めてのこと。あの晩を除いて。このまま皇宮を抜け出し、何処かに籠りたいぐらいだ」
ヴァルドの言葉にじわじわと喜びが沸き上がる。
変な嫉妬心を起こし、不安になってしまったが。それはまさに無用なもの。ヴァルドの愛は絶対だ。
そしてこの後。
一度だけと分かっているからか。
ヴァルドはたっぷり時間を掛け、私の身と心を溶かしていく。
そして時間になると「足りない。もっとミアを感じていたい。ミアが欲しい」と、らしくない甘々な言葉を並べ、私を悶絶させる。
本当に。
このまま二人で引き籠りたいなんて思いながら、晩餐会に向け、準備を整えることになった。






















































