【番外編】突然の来訪者(4)
朝食が終わり、そのまま各自自室や執務室へ移動かと思ったが、皇帝陛下から待ったがかかる。
「フロストは部屋に戻るのでいい。ヴァルドとミアは残るように」
そう言われたのだ。
何かしら?と思い、そのままダイニングルームに残ると、皇帝陛下はこんな話を始めた。
「サンド共和国の次期後継者候補の一人が、二人の婚約を祝い、王の名代として、帝都に来ることになった。風の精霊と契約しているビューネ一族の長女であり、その名はナディアという。大変有能らしい。急遽であるゆえ、今宵の晩餐会は皇族と五つの公爵家のみで取り仕切ることにした」
昨晩、その話はヴァルトからも聞いていたので、「ああ」と思うことになる。
だがそこで皇帝陛下は、思いがけない反応を示す。
「……婚約を祝い、王の名代というのは表向きの理由。厄介ごとが持ち込まれるかもしれぬ」
「父上、それはどういうことでしょうか?」
「サンド共和国はそれぞれの一族が違う精霊と契約し、力を持っていることは、ミアも知っておろう?」
私は「はい、存じ上げています」と即答した。
皇帝陛下は「よろしい」という感じで頷くと、話を続ける。
「現在の王は、火の精霊と契約しているバーン一族の出身者だが、もういい年齢だ。後継者選びは既に始まっている。次の後継者はビューネ一族と、大地の精霊と契約しているランド一族のどちらかになるだろうと言われているが……。どうやら揉めているようだ」
「つまり今回やって来るビューネ一族の長女ナディアは、後継者選びの真っ只中にもかかわらず、帝国へやって来る――ということですね?」
ヴァルトの問いに皇帝陛下は「そのとおり」と頷く。
「密偵を送り込んだものの、なかなか核心に迫る情報を得ることはできていない。ただビューネ一族とランド一族の間で、一触即発になる可能性もあるようだ。後継者選びの件で」
「なるほど。そうなるとそのナディアは、帝国の支援を取り付けたいのでしょうか。サンド共和国の次なる王は……女王として自身を認めて欲しいと。そういった思惑で帝国に来る……?」
「その可能性もある。帝国はこれまで、サンド共和国の後継者選びに干渉したことはない。それなのに急に擦り寄ってくるとしたら……ヴァルド、お前の開かれた外交の結果なのだろう。これまでは開かれた外交へ方針転換することで、受ける恩恵が大きかった。だが今後は、サンド共和国のような事案も起きる可能性がある」
皇帝陛下にそれを指摘されたヴァルドは……口元にフッと笑みを浮かべている。
「父上、それは想定内のこと。わたしの方で解決しますので、ご安心ください」
「うむ。任せたぞ、ヴァルド」
「御意」
こうして話は終わり、皇帝陛下夫妻が退出し、ヴァルドと私も席を立つ。
「ヴァルド、大丈夫ですか? 私も何か手伝えることがあれば、協力します」
「案ずるには及ばない。何より、ナディア自身に真意を問う必要がある。来訪の目的をいくつか想定し、対応策は考えるが……五つの公爵家を相手にするよりは楽なはずだ。問題ない。ミアは何も心配せずでいい」
そう言ったヴァルドだったが、私を優しく抱き寄せると、額へキスをしてこんなことを言う。
「これまでは自分一人で解決することばかりを考えてきた。だが今は違う。無論、基本的には自分で解決するつもりだ。それでも壁に当たることがあれば、ミア、君に相談する」
「ヴァルド……!」
「ミアは王宮深くで大人しくしていた王女とは違うからな。いろいろな経験をしている。それがミアの魅力であり、強みだ。ミアがそばにいてくれていること。とても心強く感じている」
どうしよう。
朝からヴァルドを押し倒したくなっている。
私は戦場には出ていたが、政治に長けているわけではない。大した意見などできないと思うのだ。それでもヴァルドは……。
きっと精神的な支えになっていると、言いたいのだと思う。
「ヴァルドにそう言われると、とても嬉しいです」
抱き寄せられていたが、その胸に自分から飛び込み、ぎゅっとヴァルドに抱きついてしまう。
「ミア……」
ヴァルドも私をぎゅっと抱きしめ、そして感じる。
つがい婚ゆえの共鳴を。
一瞬世界はヴァルドと二人だけ……になりかけたが。
「殿下。イザーク殿が会議室へ到着しています」
マッドが声を掛け、リカも「ミア皇太子妃、宝石商が結婚指輪の試作品を持参しています。応接室に案内してあります」と告げる。
『続きは夜に』とヴァルドと同時に思っていた。
声に出さずとも。
想いが初めて通じ合った!
共鳴で意思疎通を図れたのだ!
これには嬉しくなり、顔をあげ、ヴァルドを見る。
クスリと笑みを浮かべたヴァルドは、私の耳元に顔を近づけると――。
「今晩は好きなだけわたしを押し倒せばいい」
朝からヴァルドを押し倒したくなっていたことも……伝わっていた……!





















































