【番外編】突然の来訪者(3)
情熱の香りが入っている箱から紙を取り出す。
ヴァルドは無言で私を見ている。
そもそも勝負があるようなゲームではないと思う。
なぜなら最終的にどちらの香りも試すことになるのだから……。
そんなことを思いつつ、手に取った折り畳まれた紙を開く。
「ヴァルド」
ヴァルドはサラリとアイスブルーの髪を揺らして私を見る。
「Bだわ」
「そうか。わたしが選んだのはAだ。ではラベンダーの香りがついたキャンドルをつけてみようか」
ヴァルドはガッカリする様子もなく、ベッドから立ち上がる。私はこの反応に拍子抜け。だがヴァルドはそのまま私のそばにくると、ラベンダーの香りがついたキャンドルを箱から取り出した。
一方の私は、結構ガッカリしている。気持ちを興奮させ、昂る香りで乱れるヴァルド。それを見て見たかった。今日はお預けなのね、と残念でならない。
自分でゲームをしようとしたと言い出したのに。情熱の香りのキャンドルを使おうと、最初から言っておけば良かった……と、大後悔だ。
ヴァルドはそんな私を気にすることなく、燭台にキャンドルをセットした。
私は慌ててマッチを取り出し、キャンドルの芯に炎を灯す。
すると。
ヴァルドがマッチ棒を持つ私の手を背後から掴み、フッも炎を吹き消す。
強すぎないラベンダーの香りが少しずつ室内に広がっていく。
ヴァルドは私の手を掴んだまま、マッチ皿に導く。私がマッチ棒を手から離すと……。
そのまま私の手を持ち上げ、甲へとキスをする。さらに背後から腰に腕を回す。
品のいいラベンダーの香りがどんどん広がっている。その香りは心を落ち着ける香りのはずだった。
だがしかし。
ヴァルドは手の甲へのキスを終えると。
今度は私の首筋や耳たぶに、キスを始めたのだ。しかも、もう片方の手で、ドレスの上からおへそやアンダーバストの辺りに触れているのだ。
心臓がトクトクと忙しなく稼働していた。
呼吸が速くなり、ラベンダーの香りを思いっきり吸い込んでいる。それなのに! 鼓動はますます加速していた。
遂に胸にヴァルドの手が伸びると、私は甘やかな声を漏らしてしまう。
「ヴァルド! これではラベンダーの香り付きのキャンドルが、失敗作になってしまうわ!」
「ミアの感度が良すぎるだけでは?」
「!? そ、そうなのですか!?」
感度がいいなら、ラベンダーの香りの方にも反応しそうなものなのに! 私は限りなくヴァルドの声や息遣い、その手の触れ具合に、反応してしまっている。
「もしくはわたしが何か魔術を使っているのかもしれない。いずれにせよ、わたしは最初からミアを抱くつもりでいた」
そう言うとヴァルドが軽々と私を抱き上げ、ベッドへと運んで行く。
その間も首や頬へのキスが続いて、完全にラベンダーの香りは無意味な状態。
むしろ早くヴァルドにもっと触れて欲しいと、全身が熱くなっている。
ベッドに下ろされ、見上げたヴァルドの艶っぽさに息を呑みながら、一応尋ねてみる。
「……もしかしてさっきの勝負は……」
「正直、あまり関係なかった。ラベンダーの香りぐらいで落ち着くわたしではないと、ミアが一番分かっているだろう?」
それは……確かにその通りだと思う。
「あんな遊びのことをまだ気にできるぐらいの余裕は、ラベンダーの香りのキャンドルがもたらしたようだな、ミア」
「!」
「だがそれはわたしとしては、本意ではない。その余裕、瞬時に吹き飛ばしてみせよう」
ヴァルドは有言実行だった。
この言葉の後、待ったなしの溺愛タイムが始まり……。
この日の夜。
もはや気絶状態で眠りに落ちた。
◇
翌朝は心身共に満たされているが、回復のポーションは欠かせない。
一方のヴァルドは、今朝もスカイブルーのセットアップに着替え、大変爽やかな表情をしている。昨晩の名残はやはりどこにもない!
フロストと手を繋ぎ、ダイニングルームに向かうヴァルドは、良き夫であり、とても素晴らしいパパである。
改めて幸せを感じながら、いつも朝食を摂るダイニングルームに向かうと、皇帝陛下夫妻が笑顔で迎えてくれた。
朝から元気なフロストは、じぃじとばぁばに昨晩見たホタルについて、嬉しそうに報告している。
「では今度はじぃじとばぁばとも見に行こうな、フロスト」
「うん。いいよー。じぃじとばぁばとみにいく~」
無邪気に応じるフロストに、帝国のトップはニコニコしている。
平和で幸せな朝食の時間。
何も問題なんてない。
そう思っていたが……。






















































