【番外編】恋の始まり(4)
まるでロマンス小説のヒーローのように、颯爽と登場し、言葉だけで酔っ払いを撃退してくれたノルディクス様。
金髪にブルーグレーの瞳で、背も高く、立派な体躯で見るからに騎士様。
でも私をエスコートするその姿は王子様で。
私はドレスを着ていないが、お姫様気分になった。
でも。
なぜノルディクス様は娼婦やその客が利用するお店が立ち並ぶ通りにいたのか。
その先には娼館があるような通りに、どうしていたの?
もしや娼館を利用するため、ここにいたのでは……?
そう思うと、自然と盛り上がった気持ちが収束してしまう。
ノルディクス様は私より年上で、大人だった。
大人の男性はそういう欲求があるから、娼館が存在し、足を運ぶという。
ノルディクス様も大人の男性だし、そんな欲求を持っても仕方ないのかもしれない。
でも……。
今の私は気持ちが上がったり、下がったり、大忙しだった。
そしてそれは表情に出ていたのだろう。
ノルディクス様はこんなことを言い出した。
「僕には妹がいます、妹もハナ様ぐらいの年齢の時、背伸びをするようなドレスを欲しがり、両親を困らせていました。美しく着飾れば、みんなに認められると思ったようなのです。確かに着飾ることで、寄ってくる令息はいるでしょう。でもそれは見た目に引かれ、寄って来たに過ぎません。美しい薔薇に衰えが見えたら、あっさり見向きしなくなる。そんな令息にちやほやされても、意味がないだろうと諭すことになりました」
そこでノルディクス様はブルーグレーの瞳を細め、私を見る。
「ハナ様も年頃でしょうし、お洒落をしたくなる気持ちは分かります。ですがハナ様は今でも十分、美しいですよ」
「えっ……でも、こんなワンピース……。さっきの酔っ払いも田舎臭いって……美しくなんか全然ないと思います……」
「人の美しさとは外見だけでしょうか?」
ノルディクス様のその言葉にハッとする。
「こんな物語を読んだことはありませんか。貧民街で花売りをしていた少女だったが、毎日笑顔で通りを歩く人へ挨拶をしている。そんな彼女に一人の貴族の令息が目を留め――。少女が伯爵夫人になる物語です」
知っている。おとぎ話として、夜寝る前にお母さんに何度もリクエストして話してもらった。
「たとえ豪華なドレスを着ていなくても。内面からにじみ出る輝きは、人を惹きつけると思います。外見の美しさに引き寄せられる人間は、しょせん上辺しか見ていません。他に美しい花を見つければ、すぐにその気持ちは移ろってしまう。ハナ様の内面の美しさを理解してくれる相手。そんな相手と出会える方が、絶対に幸せになれますよ」
「ノルディクス様……」
「実は表通りでハナ様を見かけたのです。買い物を丁度終えたところでした。最初はこの街に、ハナ様がいるはずはないと思ったのですが……。ハナ様は瞳を輝かせ、とてもキラキラされていました。内面から出る輝きが確かにあり、『ああ、これは間違いなく、僕が知るハナ様』だと思ったのです。そこで後を追い、酔っ払いに絡まれる場に出くわしたのです」
そうだったのね……!
娼館を利用するためではなかったんだ。
でも。
そうか。
あの通りでノルディクス様は買い物をしていたんだ。
沢山の高級なお店が並ぶ通り。
そんな場所で買い物ができるんだ、ノルディクス様は。
……それも当然のことか。
マリアーレクラウン騎士団の団長なのだ、ノルディクス様は。
そこで今さら気が付いてしまう。
文通していたことで、勝手にノルディクス様を自分と同じ場所にいる人間だと思っていた。
でもそれは違っていた。
ノルディクス様は……雲の上の存在。
いくら手を伸ばしても、私が届くような相手ではない。
「サンレモニアの村をせっかく訪ねるので、お土産を買っていました」
「そうなのですね。あ、宿はここなんです」
表通りのブティックがあった辺りのホテルとは違い、私がお母さんと泊まるのは、貴族が泊まることはないただの旅宿。天蓋付きのベットではないし、絨毯だってふかふかしていない。
「これから夕食の時間ですよね。まだ少し早いですが。よろしければハナ様の母君と三人で、食事をしませんか。実はこちらを、ハナ様と母君用に、先程購入したので」
そこでノルディクス様が後ろを見ると、縦長の箱を二つ持った男性がいる。
多分、従騎士だ。
騎士団の団長であるノルディクス様の身の回りの世話を兼ねた騎士様。
「内面の美しさを説いておきながら、これをプレゼントするのはどうなのかと思ったのですが……。たまたま見かけ、お二人がそれぞれ身に着けたら、とても素敵だろうと思い、つい……。僕は決して見た目で人を判断するわけではないんですよ」
その言葉に心臓がトクトクと高鳴ってしまう。
ノルディクス様が私にプレゼントしようとしてくれている物。それが何であるか、見るまでもなく想像できている。
「これはお土産であり、贈り物です。遠慮なく、受け取ってください」
「ありがとうございます、ノルディクス様!」






















































