「え?」
体が……ポカポカしてきた。
なんだか体の芯が焦れるような、熱さを感じる。
「君は……何を考えているんだ!? 暗殺ではなく、魅了魔術をかけるために、ここに来たのか!? しかもこんな強力な……! これは魔術アイテムを持つ人間を、拘束魔術で身動きできなくする。そして魔術アイテムを持つ人間のそばにいる者が、魅了魔術にかかるんだぞ!」
これには完全に「え?」だった。
つまり。
魔術アイテムの持ち主(私)が呪文を唱えると、私が拘束魔術にかかり、身動きができなくなる。そして魔術アイテムを持つ人間のそばにいる者が魅了魔術にかかるということだ。
いや、違う……。
魔術アイテムはヴァルドが持っている状態で、私は呪文を唱えてしまった。
ということはつまり……。
ヴァルドが拘束魔術により、身動きがとれなくなり、私は魅了魔術にかかるということだ。
え、なんで?
幻覚魔術と服従魔術、さらに身体能力を高める魔術がかかっているのではないの……?
これにはもう唖然茫然だった。
だがこれは、父親が私を騙したのだと理解する。
つまりヴァルドの純潔を奪わせるために、この魔術アイテムを用意したんだ! ヴァルドが私を襲う状況を作り上げると言っていたが、これだったのね……!
というか……。
どんどん体が熱くなり、変な衝動に突き動かされそうになっている。ヴァルドを見ていると……押し倒したくなっていた。
しかもここ連日で習った『夜の儀』に関するあれやこれやが脳裏に浮かび、そしてそれらをヴァルドに対し、試したくなっている。
だって。
ヴァルドはとても素敵な体をしている。何せ剣神と言われているぐらいなのだ。剣を扱い、馬で戦場を駆けることで、彼の全身の筋肉は、見事に鍛え上げられていた。
肩から腕にかけての筋肉は、惚れ惚れするもの。さらに間違いなく、背筋も鍛えられている。そして騎乗している時の体幹の良さ。つまり姿勢がとてもいい。間違いなく腹筋は、割れている。さらに太ももからふくはらぎ。そしてお尻だって引き締まっているだろう。
それでいて着やせしているのだろうか?
ムキムキマッチョではないのだ。
細マッチョ。
驚くべきは、手が美しいこと。女性みたいな、白魚のような手をしているのだ。よほどいい革手袋をつけているのだろう。細く長い指。手の甲はとても艶やかな肌をしている。
そうなのだ。
戦場にいたとは思えない程、北部の地らしい透明感があり、シルクのような光沢のある肌をしている。触れ心地は極上だろう。
最大は間違いなく、体力がある。
こちらが満足するまで、何度でも応えてくれるだろう。
でも。
最も気になるのは……。
常に冷静沈着で、クール。顔色一つ変えないヴァルドの表情を崩したい――という欲求が最大かもしれなかった。
剣を交える時、会話はない。剣と剣をぶつけあうことで、無言の会話を繰り広げている。だからヴァルドがその美貌の顔を震わせ、官能的な表情を浮かべ、啼く声を聞きたい……。
一歩、また一歩とヴァルドへ近づく。
ヴァルドは表情を変えず、挑むようにこちらを見ている。
その顔に私は自分の顔を近づけ、ヴァルドの耳に息をふきかけた。そしてベストとシャツ越しに、彼の胸に触れる。拘束魔術が起動しているとはいえ、筋肉が反応していた。
胸筋に力が入っていることが分かる。
「あれだけ何度も刃を交えているのに。体を交えないのは変だろう? お互いの体がどうなっているのか。それは剣の動きで分かっている。だからそう……これから確認をしよう。想像通りの体なのかどうか」
そう言いながら、ベストのボタンを一つずつ外し、それを両肩から落とすように脱がせる。シルクなのでスルッと肩から落ちて行く。
「や……め……ろ」
ヴァルドの絞り出すような声。それはいつもの冷静な声とは、まるで別人だ。その事実に体の芯が熱くなる。
「そう言うな。悪いようにはしないから。……ちゃんと気持ちよくしてやる」
耳朶を甘噛みし、首筋にキスをして、そのベルベットのような触れ心地の肌を吸う。
ヴァルドの陶器のような肌に、赤いキスマークが残り、なんだかゾクゾクする。
ヴァルドは目を閉じ、唇を噛みしめていた。
ああ、そうだった。
ヴァルドは私の正体を、知らないのよね。
ということは彼は今、宿敵のマリアーレクラウン騎士団の団長リヴィに辱めを受けようとしている……と思っているのだろう。
ヴァルドにそちらの嗜好はあるのかしら?
しばらくはリヴィ団長として、ヴァルドに触れ、彼の反応を楽しむことにした。
ヴァルドのシルクのような肌が、次第に桜色へと色づいていく。
呼吸が……上がってきているわね。
興奮……しているんだわ。
そこで私は付けていたかつらを外し、そしてひっつめにしていた髪をとめる紐をほどく。
ブロンドのストレートの髪がサラリと広がり、ヴァルドの表情が変わる。
名状しがたい恍惚感に襲われた。
ここで私はリヴィ団長ではなく、一人の女としてヴァルドと向き合う。
「殿下の純潔は私が奪います」
戦場では常に私が振り下ろす剣を跳ね返し、堅牢な防壁のようだったのに。
魅了魔術が完全に作用し、全身の力が入らないようだ。宿敵である美貌の皇太子ヴァルドは、私が片手でその肩をツンと押すだけで、ベッドに仰向けで倒れ込んだ。
ゆったり膝を乗せ、ベッドに上がり、そして身動きが利かない皇太子に馬乗りになる。
既に体の自由は利かないだろうに。それでもサラリとしたアイスブルーの前髪の下の眉は、キリッと吊り上がっている。その眉の下の、皇族特有のアイリス色の瞳。睨むようにして彼は、私を見上げる。
ヴァルドの瞳には、男物の白シャツに、黒いスリムズボンを履いた私の姿が映っていた。
私のことは、男だと思っていただろうから、驚きだろう。さらにその私に今から純潔を奪われるのだから、より一層衝撃のはず。
「気持ち良かったら、声を出してもいいんですよ」
パールホワイトのシャツに、きちんと留められた濃紺のタイに手を伸ばす。シュルッと音を立て外しながら、私は悠然と微笑んだ。






















































