【番外編】恋の始まり(2)
「お客様、大変申し訳ございません。そちらのドレスはシルクですし、刺繍も手が込んだもの。お値段は三十ゴールドとなります」
一軒目のブティックでそう言われた時。
もうビックリだった。
ロマンス小説の表紙に描かれていそうな。
ミア皇太子妃が着ていそうな。
そんな美しいドレスをショーウィンドウで見て、ドキドキしながらお店の中に入った。
ゆとりのある店内には、まさに貴婦人がいて、ソファにゆったり座り、店員さんと談笑している。
正直。
流行とは無関係の、綿の草木染のワンピースを着ている私は浮きまくっている気がする。
でも店員さんはあくまでにこやかに私を見て微笑んでくれた。
なんというのだろう。
お客さんである貴婦人しかり。店員さんしかり。
余裕、がある。
お金持ちはみんな、こんな感じなのかな。
そんなことを思いながら、ドレスを見ていると……。
「主から買い物を頼まれたのですか? 小物でしたら、こちらにございますよ。何かお急ぎでご入用なのかしら?」
店員さんの言葉に、一瞬固まってしまう。
主……?
そこで理解する。
私が買い物すると思っていないんだ。
貴族に仕える使用人に……見えたわけね。
それを屈辱とは思わない。
だってこのお店。
私みたいな服装のお客さんはいない。
こういうお店で買い物をする人は、最初からこのお店にあるようなドレスを着て、ここに来るのだろう。
だから私が使用人だと思われても……仕方ない。
ここで気持ちを折れさせてはいけないわ。
ちゃんと素敵なドレスを手に入れて、次はもっと堂々とこのお店に来られるようになるのだから!
そこで私は緊張しながらも、自分がドレスを買いに来たことを伝える。店員さんは「!」と驚いた様子だったが、「なるほど。……気になっているドレスはございますか?」と聞いてくれたのだ。そして私はショーウィンドウで見たドレスが気に入ったと話すと……。
店員さんは、そのドレスを着た私が「とても華やかで、舞踏会でも令息から声を掛けられること間違いないですよ」と言ってくれるのだ!
これに舞い上がった私は「これに決めました! ください!」と頬を高揚させて言い、ワンピースのポケットから巾着袋と取り出した。
店員さんは即決した私に驚きつつ、「試着はされますか?」と尋ねる。
「試着します!」と勢いよく返事をすると、別の女性店員さんがクスクス笑い「では一点ものですので、今、お持ちしますね」とショーウィンドウへ向かう。そして最初の店員さんとレジへ向かった私は……。
「ちなみにこれで足りますよね?」と金貨といくばくかのコインを見せた。
すると「……お値段は三十ゴールドとなります」と言われたわけだ。
もう驚いた。
そんなにするの!?と。
私が買えないと分かったが、優しい店員さんは「試着だけでもされますか?」と聞いてくれたのだけど……。
それでもしピッタリだったら、悲劇でしかない。
買えないドレスを試着するべきではないと思い、辞退してお店を出た。
その際、店員さんは「この通りのブティックは、安いもので二十ゴールド、上は百ゴールドと高いドレスばかりです。ここから二本裏に入った通りでしたら、1ゴールドで買えるドレスもあるかもしれません。……ただ、その……そちらのドレスは少し派手で、お嬢さんのような方が着るドレスではないと思います。でもどうしても何か事情があり、ドレスが必要でしたら、そこでなら手に入るかもしれません」と教えてくれたのだ。
なんて親切なのだろう。
私は御礼を言い、ひとまずその通りに行ってみることにした。
そこは……これまで来たことがない通りだった。
さっきまでいた通りは、清掃も行き届いていて、貴族の馬車も行き交っていた。お店にはドアマンが当たり前のようにいたのだけど……。
その通りから、二本通りを挟んだだけで、こんなにも雰囲気が変わるもの……?
なんだかじめじめとしてゴミが散乱し、お酒の瓶も転がっていた。野良犬がウロウロして、酔っ払いが道端で寝ている。ドアマンの姿もなく、貴族の馬車も見当たらない。
それに何だか露出の多い、赤や紫のドレスを着た女性が、甲高い声で笑っている様子も目に付く。
さっきは高級なブティックで、場違いを感じてしまったけれど。ここでも何だか自分が場違いに思えてくる。
でも……ドレスを売るお店は確かにいくつかあった。
ただ、さっきのブティックとは全然違う。
まずショーウィンドウに堂々と「一着1ゴールドぽっきり!」と書かれた紙が飾られている。そしてマネキンが着ているドレスは……。
胸元があまりにも大きく開いており、しかも肩からドレスがずり落ちそうに見える。背中の開きも深く、あれでは下着が見えてしまう……下着をつけるのが無理では?と思えてしまう。
確かにドレスが欲しかった。
しかし金貨1枚で手に入るドレスは、私の想像とは全然違う。
そこでようやく気が付く。
ダメなんだ。金貨1枚ではと。
しょんぼりしたその時。
「お嬢さん、一人?」「俺達と遊ばない?」
酔っ払い二人組みに声を掛けられた。
こういう時は無視して相手にしない。
もう宿へ戻ろう。
そう思ったが。
「おい、おい、芋臭いお嬢ちゃんよ、お高く止まっているんじゃないぜ」
「俺達を無視するとは生意気な」
酒臭いのっぽと巨漢の二人が、私を挟み打ちするように立ち塞がった。
「お母さんが待っているんで、どいてください!」
「ぷっ。お母さんだって!」
「まだガキだな」
二人は大声で笑い、私は周囲にいる大人を見るが……。
派手なドレスの女性。その側にいる男性。
みんな……ニタニタ笑って見ているだけだ。
村のみんなだったら、絶対助けてくれるのに!
逃げようと思った。
走り去ろうとしたら。
のっぽな男に腕を掴まれた。
「話の途中で逃げるなんて、失礼だろう!」
怒鳴られた瞬間。
怖い!
お父さん、お母さん、助けて!
涙が出そうになった。






















































