【番外編】恋の始まり(1)
「おばあちゃん、街に行きたい! 沢山ブティックがあるような、大きな街!」
「なんだい、ハナ。藪から棒に。どうして急にブティックなんかに行きたいのさ」
「だって、ノルディクス様が来るのよ! ノルディクス様は王都に住んでいるんだもん。きっと目が肥えているわ! 周りにオシャレな令嬢が沢山いる。私もちゃんと素敵なドレスを着ないと、田舎臭いって思われちゃう」
するとおばあちゃんは「何を色気づいているんだか!」と一蹴する。
「そもそもハナ、大きな街で売っているようなドレスを買えるお金なんて、持っていないだろう? それにそんなドレスを買って、どこに着ていくつもりなんだい?」
おばあちゃんは鼻で笑いながらそう言うが。
そんなことはない。
実は私、ちゃんとコツコツ貯金をしている。
それにミア皇太子妃は「これまでお世話になった御礼だから、受け取って」と、なんと金貨を1枚渡してくれたのだ!
これまでの貯金とこの金貨で、王都にいる貴族の令嬢が着ているようなドレス。きっと手に入るはずだわ!
それにこの村にだってレストランはある。
たった一軒だけど。
基本的にお祝い事は家でするもの。
家族みんなで過ごすのが当たり前。
それでもプロポーズとか、特別な時に、みんなそのレストランを利用している。
お母さんだってお父さんにそのレストランでプロポーズされたのだから。
お洒落して行く価値はあると思う。
本当は……大きな街にあるレストランに、素敵なドレスを着て、ノルディクス様と行きたいな……と思う。
ロマンス小説では、こんなシーンが登場する。
運河沿いにある夜景が綺麗に見えるレストランで騎士が令嬢にプロポーズ。
宮殿勤めの上級補佐官が令嬢を一流シェフのいるレストランにエスコートして、婚約指輪を贈る。
そういうのは……やっぱり少し憧れてしまう。
特にミア皇太子妃が、ヴァルド皇太子とフロストくんと村に挨拶に来てくれた時。
ミア皇太子妃はアイリス色のドレスを着ていて、ヴァルド皇太子はアイスブルーのセットアップを着ていたのだけど……。
二人は本当にロマンス小説に登場する、ヒロインとヒーローそのものに思えた。
キラキラしてとっても綺麗でハンサムで。
素敵なカップルだった。
私もミア皇太子妃みたいなドレスを着て、お化粧をしたら……。
ノルディクス様は騎士の隊服にマントだけでも十分にカッコいい。ドレスアップした私がノルディクス様の隣に並べば、ミア皇太子妃とヴァルド皇太子みたいになれるはず!
そのためにも。
大きな街へ行くために。
おばあちゃん、ごめんなさい。
毎日使っている腰痛に効く塗り薬を隠します。
後でちゃんと戻すからね。
薬が置かれている棚から、大きな街でしか手に入らない、おばあちゃんの塗り薬をワンピースのポケットに忍ばせる。
今日はこの後、お母さんがやってくることになっていた。そこでお母さんが腰痛の塗り薬がないことに気付き、おばあちゃんは「おや、もうなくなっていたのかい? それは困ったね。明日はお店、定休日だったよね? 買いに行ってくれるかい?」となるはずだ。
そうしたら私もお母さんについて街へ行く!
そこでお姫様みたいなドレスを手に入れよう!
◇
計画は上手くいった。
目論み通りでお母さんが、おばあちゃんの腰痛の薬を調達するため、街へ行くことになったのだ。そして街へ行く母親に私がついて行くことは……よくあること。
ブティックに行きたいとおばあちゃんに言ったものの。一蹴された後、食い下がることはしていない。だからおばあちゃんは私がもう諦めたと思っている。
よってお母さんと一緒に街へ行くことも、あっさり許可してくれたのだ!
大きな街へは泊りがけで行くことになる。
早朝、サンレモニアの森を出るところまでは戦士の役割の村人に送ってもらい、そこからは馬車で移動。
昼過ぎに街に到着したら、まずは腰痛の薬を買いに行く。その後、お母さんは街一番の園芸品のお店へ行くのがいつものこと。
そこがチャンス!
本屋に行きたい、夕食の時間までには宿に戻ると言えば、お母さんは許してくれるはず。
そして実際……。
「本屋? そう。いいわよ。いつも園芸品のお店に付き合ってもらっているものね。たまにはハナも自由にしたいのは分かるわ。そうしたらほら、これ。気になる本があったら買っていいわよ」
特別にお小遣いも貰えた!
「この街へ来るのは初めてではないから、大丈夫だと思うけれど……変な人には気を付けるのよ。人通りの少ないところへは行かない。知らない人に声を掛けられてもついて行かない。それに」「お母さん!」
さすがにそこはストップをかける。
「お母さん、大丈夫よ。私、十歳の子供じゃないんだから。何かあったら大声を出す。警備隊の屯所に駆け込む。ちゃんと分かっているから、平気!」
「じゃあ、夕食までには宿へ戻るのよ?」
「はーい!」
こうして私は意気揚々としてブティックに向かうことにした。






















































