【番外編】忘れえぬ思い(11)
香り付きキャンドルの話し合いが終わると、ケイン大公がなんだかソワソワし始めた。
その理由は……すぐに分かる。
この件はとっと済ませようと思い、私から尋ねることにした。
「マリアーレ王国から私に随行していた騎士がいるのですが」
その一言で、ケイン大公の瞳が輝く。
キラキラとしたその瞳は、まさに乙女そのもの。
だがその装いは、淡い藤色のセットアップ。
これにはどう反応していいのやら。
戸惑う私にケイン大公が語り掛ける。
「あの、実はその騎士様に昨日、助けられたんです」
そうですよね。分かっています。
「実は僕には腹違いの妹がいるんですが……非嫡子で、公にはされていません。実はその妹が、騎士様に助けらたようで……」
これにはビックリで、私は咄嗟に言葉が出ないが、ヴァルドが代わりに反応してくれた。
「その妹君は今回の訪問に同行されているのですか!?」
「はい。亡くなった父親……故大公の愛人の子供、それが妹です」
そ、そうだったのね……!
「妹の生みの親は、亡き母親の侍女だった女性。母親とその侍女の祖先は、実は帝国出身。つまりその侍女は、代々僕の一族に仕えてくれている家系の人間なんです。帝国出身であるからなのか、父親が同じだからなのか。腹違いの妹と僕はそっくりなんです。しかも亡き母親が妊娠中に、故大公は魔が差し、その侍女と関係を持ち……。ゆえに年子で、年齢も近い。双子に間違われることもあります」
「なるほど。非嫡子であることから、我々とは挨拶をしていない。同行しているが、その身分は使用人……ということですか」
ヴァルドの問いに、ケイン大公は「そうです」と頷く。
「メイドとして同行しており、普段はメガネをかけ、髪アップにしています。昨日、僕は連日のお茶会やら晩餐会、舞踏会で疲れてしまい、一日休むことにしたのです。使用人たちは時間ができたので、各自、自由に行動させました。妹にはせっかくだから、買い物でも行くといいと伝え、まとまったお金を渡したんです。そして従者二人をつけ、街へ送り出したのですが……」
「まさかスリに遭ったり、暴漢に襲われると思わなかったのですね」
驚きを呑み込み、なんとか私も声を出す。
「その通りです。妹もそんなに買い物をするつもりはなかったのようなのですが……。今、街のブティックでは、ファッションウィークの最中なんですね。ブルクセン大公国には、そんなおしゃれな習慣はなく、妹は驚き、沢山の素敵なドレスについ、夢中になってしまったようです。それに僕の渡したお金もあるので、買い過ぎてしまったようで……。目をつけられてしまったのでしょうね。貴族だと思われたのでしょう。実際はただの使用人なのに」
「なるほど。そういうことだったのですね……」
てっきり女装したケイン大公かと思ったが、そうではなかった。
ただ、そうなると……。
それはそれでややこしい。
リヴィ団長は私。そしてあの令嬢は大公の妹なのだから……。
チラリと横を見ると、ヴァルドが笑いを噛み殺している。
嫉妬していた相手が、実は正真正銘の女性であると分かったからだろう。そして私が……女性に好かれていると分かったのだ。
正確にはリヴィ団長が好かれている、だけど。
ともかく笑いたくなる気持ちはよく分かる。
「妹はその騎士に……一目惚れをしたようなんです。まるでロマンス小説に出てくるような王子様だと。あ、僕が女性のファッションやロマンス小説に詳しいのは、妹の影響です。そういった話をよく妹としているので……」
「妹さんが一目惚れしたその騎士ですが」「妹は」
ケイン大公は私の言葉に被せるようにして、残念そうな表情をしている。
彼が何を言おうとしているのか。
先を促すことにした。
「お話に被せてしまい、申し訳ないです。妹は帰国したら結婚します」
「「え」」
これはヴァルドと私で驚きの声を同時にあげてしまう。
「相手は子爵家の当主です。奥方を若い時に亡くされており、後妻をとらず、子供を育てられていましたが……。僕に会うため屋敷へ訪問した際、妹のことを見初めてくれたのです。妹は非嫡子ですし、僕が大公であっても、大きなメリットもない。それでもいいというので、歳の差は二十歳ありますが、その婚姻を認めました」
そこまで話すと、ケイン大公はため息をつく。
「妹も貴族の一員になれるのです。しかもそのまま僕のメイドとして働くことも、婚約者は認めてくれているので……その話を受けたのですが……。歳の差二十歳は、親子ほど離れていると言っても過言ではないです。悪党を見事に倒し、妹をレディと呼んでくれたその騎士に……心を奪われてしまったようです」
事情はよく分かった。結婚相手が二十歳も年上となると、確かに父親と思えてしまうかもしれない。対して、リヴィ団長は圧倒的に若い。ケイン大公の妹からしたら、白馬に乗った王子様に思えてしまったのだろう。
「報われない恋です。それはまさにうたかたの夢のようなもの。せめて御礼と相手の名前、また自分の名前を伝えたいようなのです。なんとかその騎士を妹に会わせていただけないでしょうか。最後に一度だけ会えれば、妹もあきらめがつくと思うのです」






















































