【番外編】忘れえぬ思い(10)
まさか一日に二回。
朝と夕方に回復のポーションを飲むことになるなんて!
でもケイン大公に嫉妬したヴァルドは、いつもより激しく、さらに熱が収まらない!
夕食の準備ギリギリまで抱き潰されてしまった。
ヴァルドはお仕置きと言っていた。
確かに足腰が動かなくなり、そこは……お仕置きだったかもしれない。でもあの日の再現のように肌を重ねたのは……。正直なところ。大変興奮し、何度も意識が飛びそうだった。
結果的にはご褒美だったと思う。
一応、ケイン大公を尾行……護衛することになった経緯は話すことができ、さらに何が起き、彼を助けることになったのか。その説明もちゃんとした。そこでようやく、ヴァルドの嫉妬の炎は収まってくれたけれど……。
「まったく。何をややこしい状態を作り出しているんだ、ミア? 女装した大公が、男装したミアに好意を持つ……。信じがたい事態だ」
「そうですよね。でも皇太子妃として会っている時、ケイン大公は私に全く関心がないんですよ。それなのにリヴィ団長……ジョンの姿に惚れられてしまいました。でもジョンは帰国したと伝えるので、大丈夫です。あ、なんなら既婚者だと伝えます!」
「何を名案を思い付いた、みたいな顔をしている、ミア」
既にヴァルドはテールコートに着替え、私もドレスに着替えていたのに。
あやうく押し倒されるところだった。
ここはフロストが待っていると伝えることで、ヴァルドは落ち着いてくれたのだけど……。
まさかヴァルドがあんなに嫉妬するなんて。
嫉妬は好きの裏返し。
想いが強い分、嫉妬は深くなるわけで……。
なんて私はその時、ニマニマしていたけれど。
翌日は大変!
ケイン大公に「例の香りのブレンドが完成しました!」と連絡を受け、会うことになったのだけど……。
ヴァルドは自身の執務の時間を調整し、ケイン大公と会う場に同席した。
しかも宮殿の庭園の中央の噴水の前に、わざわざ席をもうけたのだ。
その理由。
もしも不測の事態があり、ヴァルドがどうしても私を残し、席を立つことがあったとしても。警備兵や庭園を散歩する貴族がいる。ケイン大公も変な気持ちは起こさないだろう……ということでこの場所が選ばれたのだけど。
ケイン大公がホール・イン・ラブしたのは、リヴィ団長。そして普段の私はミア皇太子妃なのだ。よって部屋であっても何も起きないと思う。
とはいえ。
いくらケイン大公の嗜好が女性ではなく、男性にあるとしても。世間的には未婚の男性と女性が密室(双方の護衛や従者や侍女はいるのだけど)で会うのはよろしくないこと。
よってこんな目立つで場所あることは……仕方ない。
ということで、噴水前に用意された椅子に着席することになった。
ヴァルドはスカイブルーのスーツ、私は白のドレス。
皇太子と皇太子妃がこんな場所でどうしたのかと、庭園を散歩する貴族達が早速好奇心剥き出しの視線を向けるが、警備兵もいる。
よって立ち止まってじっと眺めることはできない。皆、歩きながら、チラチラとこちらを見ている状態だった。
そこに淡い藤色のセットアップ姿のケイン大公が登場。
ヴァルドが同席することは伝えていないので、分かりやすくビックリしている。
さらに噴水の前……そこがこれ程目立つ場所だとは、ケイン大公は知らなかったと思うのだ。
ゆえに。
なぜ、こんな場所で?と思っただろう。
次に。
なぜ、皇太子もいる?とも思っただろう。
それに……私が依頼したのは「気持ちを興奮させ、昂る香り」なのだ。
その用途は想像できているだろう。
そんな香りの話を、周囲に人がいるような場所ですることに……驚いたと思う。
だがヴァルドはケイン大公に嫉妬しているのだから、この場所でこの状況でも……仕方ないと思います!
ともかく驚いただろうが、ケイン大公はちゃんとヴァルドと私に挨拶をして、そして用意されている椅子に座った。
すると控えているメイドが全員のティーカップに紅茶を注ぎ、会話がスタートする。
「ミア皇太子妃。こちらが例の香りをブレンドしたものです。こちらはサンプルとして香水仕様にしたので、香炉ではなく、このまま確認いただけます」
ケイン大公がテーブルに置いたのは、ガラス瓶。
その見た目は彼の言う通りの香水にしか見えない。
「ありがとうございます。ケイン大公」
受け取った瓶の蓋を開け、香りを確認すると……。
ベルガモットとジャスミンがブレンドされているのだ。柑橘系の爽やかな香りが感じられ、さらに甘いあの香りがするが、そこにジャスミンのすっきりさが加わる。
とても心地よく、気分がよくなり、そして……自然と気持ちも昂って来た。気持ちが昂れば、それは自然と興奮状態につながると思う。
ヴァルドにも渡すと、その香りをすぐに確認し、満足そうに微笑む。
「ケイン大公。いい香りだ。これでキャンドルを作れば、夫婦や恋人達がこぞって購入するだろう。ぜひ香りのついたキャンドル。我が国と独占取引をしようではないか。それに加えて……」
こうしてヴァルドは、香り付きキャンドルについて、きちんと商売として成立するような交渉をケイン大公としてくれた。そこはどちらか一方が有利に立つようなものではなく、双方で利益が出るよう考えられたもの。
ケイン大公はこの提案に異論はないし、むしろ帝国と取引できることを喜んでくれた。そしてなぜヴァルドがここに同席していたのか。その意味を理解できたようだ。
あくまでケイン大公が理解したのは表向きの理由。真意は嫉妬……なのだけど。
兎にも角にも無事、香り付きキャンドルの話し合いが終わった。
するとケイン大公がなんだかソワソワし始めた。






















































