【番外編】忘れえぬ思い(8)
「コスタ!」
「あ、団長!」
「少年は?」
「捕えて、帝都警備隊に引き渡しました。で、団長は……お見事。財布奪還ですね!」
「だがケイン大公の姿が見当たらない」
その時だった。
「きゃあ」と悲鳴が聞こえる。
コスタと顔を見合わせ、声の方へと向かう。
路地を一本入ったところで、二人組の男が令嬢ににじり寄っている。
紙袋や箱が散乱し、二人の従者が気絶していた。
「団長」
「左の長身は僕に任せろ」
「いや、普通そっちが俺でしょう?」
「うるさい。ごちゃごちゃ言わず、進軍!」
「御意!」
百年戦争を戦い抜いた。
剣神と言われるヴァルドの相手もしている。
貴族令嬢……ケイン大公に襲い掛かる帝都のチンピラなど……瞬殺だった。
剣を鞘から抜くまでもない。
柄頭を急所にいくつか打ち込むだけで、大男は伸びた。
コスタの方も問題なく、ひょろりとした痩せ男を倒している。
目配せで、コスタに従者の様子を確認させ、ケイン大公に声を掛ける。
ここはリヴィ団長らしく振る舞い、私だとバレないようにしないと!
「レディ。お怪我はありませんか?」
「は、はいっ」
涙目でこちらを見上げるケイン大公は、どうしたって可憐な令嬢にしか見えない。
「立ち上がることはできますか?」
そこで手を差し出すと、ケイン大公がポッと頬を赤くする。
これにはなんだかドキドキしてしまう。
普通に恥じらう乙女にしか見えないのだ。
おそるおそるでケイン大公が手を差し出したので、ここはグッと掴み、立ち上がらせてしまう。
そうしたのは、私が女性だから。
力学的にちんたら立ち上がらせることは、女性の力では難しい。
ここは一気に動くことで、女性でも男性のような力強さを出せるのだ。
「あ、ありがとうございます」と言いながら、ケイン大公が私の胸の中に飛び込んでくる。
念のためで、革製の胴鎧をつけていて良かったと思う。
そこで気が付く。
ケイン大公は私と同じぐらいの背格好であると。
もしや普段はシークレットブーツでもはいている?
「騎士様、ありがとうございます……。おかげで助かりました」
「いえ。困ったレディを助けるのは当然のこと。……こちらの財布も取り戻しておきました。この辺りは物騒というわけではないのですが、今の季節、貴族の令嬢がブティックに増えます。そういった令嬢を狙う悪い奴らもいますので、護衛の騎士はつけた方がいい。従者だけでは荷物持ちにしかなりませんから」
「そうですね……。騎士様が来てくださり、本当によかったです。お財布もありがとうございます」
そう言うとケイン大公が私に抱きつき「怖かったです……」と言うので、ここは仕方ない。その背中を撫で、宥めていた時。
「この野郎……」
コスタと、意識を取り戻した従者は、散乱する紙袋や箱の回収をしていた。そして二人の悪人は気絶していたはずだが、大男の方が意識を取り戻していたのだ。
脂肪と筋肉が厚いから、急所に入っていたが、甘かったのかもしれない。
今度はもうアッパーにいれ、完全に脳震盪を起こさせよう。
そう思い、動こうとしたが。
「きゃあ」と叫んだケイン大公が私に抱きつく。
「レディ、落ち着いてください。僕の背後に」
そう言っているそばから大男がこちらへ駆けて来る。
すぐにコスタが動いたが、多分、間に合わない。
そうなると……。
私はあくまでリヴィ団長。
レディ……賓客であるケイン大公を守るしかない。
背中を一発殴られる覚悟をした時。
「やあ、そこのビッグ・ガイ」
大男が振り返った瞬間。
その顔面に石が直撃した。
鈍い音が聞こえ、リヴィ団長としての私の予想。
鼻の骨と前歯があわせて四本は折れたと思う。
大男はへんてこりんな叫び声をあげ、その場に崩れ落ちた。
さらにコスタが脳天への一撃を加え、大男を気絶させる。
「あそこでのびている男二人を捕らえろ。落ちている荷物は拾う。……そしてレディとハンサムくん。無事かな?」
そう言ってウィンクするのは、マッド……!
「ありがとう。助かった」
「いえいえ、どういたしまして。ハンサムくんの顔に傷でもついたら、自分の心が痛みますので」
そう言ってマッドは優雅にお辞儀をするが。
間違いない。
リカから私のことを聞いたヴァルドが、マッドを動かしたんだ。
その命令はきっと――。
「マッド。これは命令だ。私の最愛に傷一つでもついてみろ。その責任をお前にとらせる。大公は……自業自得だ。何があっても知らん……と言いたいところだが仕方ない。全員無事に帰還させろ」
こんな感じに違いない。
それよりも今は。
「レディ、馬車まで送りましょう」
するとケイン大公がキラキラと瞳を輝かせながら私を見る。
「騎士様、あなたはマリアーレ王国の方ですよね? その剣の柄頭の紋章は。もしやミア皇太妃の騎士なのですか? 宮殿に戻ればまたお会いできますか?」
「え、えーとですね」
「御礼をさせてください。お名前も教えてください」
これには「参ったな」と思い、「僕は大男を完全に倒せませんでした。最終的に倒したのはこちらの方なので……」とマッドを見るが……。
「あちらの方にも御礼はします。ですが騎士様にも御礼をさせてください!」






















































