【番外編】忘れえぬ思い(7)
ケイン大公は賓客。
もしもがあると困る。
そこでリヴィ団長として、彼の護衛につくことにした私は。
コスタを連れ、街へ向かった。
リカは「ええっ! 王女様ならまだしも、今は皇太子妃なんですよ!? そんなリヴィ団長の姿で護衛なんて!」と驚愕する。
だがここはお忍びで出掛けたケイン大公に何かあっては大変と説得し、宮殿を抜け出した。
一応ヴァルドには伝言のメモをリカから渡してもらうことにしたが……。
「ミア、君は……」と驚きつつも、最後は許してくれる気がした。
だって。
私の剣術の腕前はヴァルドが一番知っているのだから。そして実はいまだに剣術の練習は続けていたのだ。
「なんだかマリアーレ王国でのお忍び外出を思い出しますね。ここにノルディクスがいたら『王女様、二時間だけですよ! それ以上はバレます。無理です!』って、額に汗を浮かべていそうです」
「ノルディクス……。そうね。元気にしているかしら?」
「元気なんじゃないですか? そろそろサンレモニアの村も雪解けでしょう? 春は王都でも行事が多くて忙しいですけど、新緑の季節になればそれも落ち着きます。そうしたら会いに行くんじゃないですか。あの村長のお嬢さんのところへ。文通をしている」
ああ、そうだった!
ノルディクスはミーチェ村長のお孫さんと文通していたのよね。歳の差はあるし、ハナは今度十七歳で、まだ若いけれど。
上手くいって欲しいと思っている。
何より戦友であり、兄貴分だったノルディクスには幸せになって欲しいから!
「あ、あれ? うん? あれですよね、大公……?」
コスタがなんだか半信半疑になっているのは仕方ない。
なぜなら……。
「そうね。というか驚いたわ。なるほどね。大公であると絶対にバレないよう、女装しているなんて。これは盲点よね?」
「やっぱりあれ、女装ですよね?」
ケイン大公はもしかするとお忍びでの外出に慣れているのかもしれない。
お化粧もちゃんとして、ドレスも着こなしているのだ。そしてそのドレス姿は普通に清楚系令嬢として可愛らしい。
元々、美しい顔立ちをしていたし、それは中性的で女性にも見えていた。ゆえに今の姿に違和感はない。
むしろ違和感を覚えるのは……。
「ブティックに入りましたよ」
「そうね……」
今はファッションウィークでブティックにはデザイナーの新作が溢れ、貴族の令嬢マダムが殺到している。そんな大盛況のブティックに、女装したケイン大公は入って行ったのだ。
「病弱なお兄さんがいるんですよね。……お姉さんやお姉さんがいたんでしたっけ?」
コスタの問いに大公の家系図を思い出すが、女兄弟はいないはず。さらに母親は亡くなっている。
「女兄弟はいないはずよ。……親戚に令嬢はいるかもしれないけれど」
「親戚の令嬢のために、お土産でドレスを買おうとしているんですか?」
どうなのだろう。その可能性はゼロではない。
「真意は分からない。でも楽しそうに買い物しているんだ。静観しよう」
つい、リヴィ団長の口調になると、コスタはもう条件反射で「御意」と答えている。
こうしてお忍び外出をするケイン大公見守ったが、彼はブティックのはしごをしていた。
合間に香油のお店へ行っているので、それはきっと私のリクエストした香りを用意するため、香油を手に入れたのだと思う。
「随分、買い込みましたね」
「そうだな。今は新作の季節だから。……あれはきっと自分用だろう。お忍び用の衣装をきっと手に入れたんだ」
「え。団長。本気でそう思っています?」
これには苦笑するしかない。
「ではコスタ。あの衣装は何のために買ったと思っている?」
「自分用ですが、お忍び用ではない。それに未婚で婚約者もいない。多分……ケイン大公は女装の趣味があるんですよ。それできっと恋愛対象も……」
そこでコスタが私を見る。
「男が好きなんですよ、きっと」「え」と叫びそうになる私の口を、コスタが手で押さえる。「団長! 尾行しているんですよ! 叫ぶの禁止!」と注意されるが……。
遠くから護衛をしているのであり、尾行ではなかったはず。
だが……。
ケイン大公の秘密を知ってしまったようで、なんだか護衛ではなく、確かに気分は尾行だった。
すると従者二人を連れたケイン大公がブティックから出てきた。
既に二人の従者は荷物がいっぱいで、これ以上は持てそうにない。
ケイン大公自身も帽子が入っているらしい箱を手にしている。
これで打ち止めで、宮殿の客間に戻るだろうと思われたまさにその時。
ケイン大公に一人の少年がぶつかった。
同時にその背後を青年が通り過ぎる。
「コスタ」「スリですね」
少年をコスタが追い、私は青年を追いかける。
元王女、現皇太子妃の私であるが、運動神経はまだまだ抜群。
あっという間に青年を捕らえ、その腕を締め上げ、大公の財布を取り戻す。気絶させ、近くの人に帝都警備隊を呼ぶよう頼む。そしてケイン大公がいるはずの場所に戻ると……。
その姿が見当たらない!






















































