9話 特撮ガール!
ガードナーが見事にスイカを割ったころ、ルルに電話が掛かってきた。
「IRMO本部からです」
「繋げ」
ロボナーにはGPSが搭載されている。
ルルが手で髪をかき上げ額を露出させるとナンバープレート表示が消え、円形の画面に禿頭の男が映る。
バリトンのやたら渋い声で「ガードナー、休暇中にすまない。そこから20キロ先の沖合いでクルーザーがサメに囲まれているんだ。女性が乗っているんだがパニックに陥っているようだ。都合の悪いことに一番近いライフガードが体調不良で動けない。他のライフガードは君より遠い場所にいる。すまないが救助に行ってくれないか?休暇を増やすから」(彼もロボナーで通話している)
「了解です」
「悪いね。今度また一杯奢るよ」
「恐縮です」
「すでに装備がそこに向かってる。君のデータを転送しといたから、いつものように使えるぞ」
「わかりました」
ガードナーは囁き声で喋っているが、ルルの耳ははっきりとガードナーの声を拾っていた。
相手からの声は超指向性でガードナーの耳にだけ聞こえた。
ロボナーは喉の奥にスピーカーがあり、そこから音声を出しているが、こういう時は腹話術方式で唇は動かさない。
ビデオ通話のときはロボナーの目がカメラの役割を果たした。
もちろん音声のみの通話もできる。メールやSNSの通知も教えてくれるし、メッセージを読み上げてもくれる。
口頭で伝えればメッセージを作成・送信してくれる。
調べたいことがあれば尋ねるだけでインターネット検索&AI要約して教えてくれた。
スマートスピーカーより遥かにできることは多い。
「急な仕事が入った。恐らく3時間ほどで戻ってこられると思うから、マキを頼む。ルルはみんなと一緒に居ろ」
そう言ってる間に大型ドローンがやって来る。砂浜に降りたのでは砂が舞うので海面に着水して浜辺に乗り上げた。機械顔のロボナーが乗っている。
生物を攻撃できないロボナーでは、サメを撃退できないし、現場での当意即妙な対応は人間でなければ無理だ。
「防護服を持ってきました。装着してください」
「わかった」
手早くメタリックブルーの防護服を装着すると、キーワードを叫ぶ。
「変身!!」
フルフェイスヘルメットが頭と顔を一瞬で覆う。
マキナが目をキラキラさせて眺めていた。
「マキちゃんも特撮ヒーローが好きなの?」と、ルーファンが聞く。
「はい!特にCGを使ってない時代の特撮は最高です!!俳優さんの必死さが全然違います!!!」
「危険な場所でも当たり前のようにアクションするんですよ!最初VFXかと思ったんですけど、その時代にそんなもの無いんですよ!!」
「ヒーローの近くでやたらと爆発させるんですよ!合成じゃないんですよ!!」
「走ってるバイクから立ち上がって変身ポーズ決めるんですよ!ヤバくないですか!!?」
「主役ロボの剣を敵ロボが腕に付けてる盾で受け止めるのが格好良過ぎるんですよ!!!」
「はいはい、涼しいところでスイカ食べながらおしゃべりしましょ」と、ミコが言ったので一行は休憩所へ移動した。ガードナーから指示を受けていたルルもトコトコとついてくる。
結局、ガードナーが帰ってくるまで延々と特撮の話を聞かされ続けた。
「それはすまなかった」と、後でガードナーに謝られてしまう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
心置きなく遊んだ帰り道。自動運転車の中でミコは言った。
「どう?少しは気が晴れた?」
「まあね」
一週間前、僕たちの先生であるクレイブ博士から、生命創造研究が政府決定で無期限に禁止されたことを知らされた。クレイブ博士は生命創造研究のオピニオンリーダーだ。ミコの父親でもある。
事故ではなく事件かもしれないことは示唆されていたが、事故だろうと事件だろうと合成生物によって犠牲者が出たことが問題視されたのだ。
生命創造を禁止されたのは、はっきり言ってショックだった。
「いつまでもガッカリしないで。パパは何か考えてるみたいよ」
そう言ってからミコは可愛いあくびをして、やがて寝息をたてはじめた。
VFX=「Visual Effects」CGによる技術を活用し、実際の映像と組み合わせた映像技術
オピニオンリーダー=集団の意思決定に関して、大きな影響を及ぼす人物
毎週土曜日更新予定
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