5話 怪物
R-15にはしません。特撮ヒーローは子供のものだから
IRMO警備員が駆けつけた時には、すでに手遅れだった。
多数の研究員や職員が倒れている。
その中に、怪物がいた。
怪物は体長2メートルくらい、熊とワニの合いの子みたいな姿をしている。
警備員はパニックに陥り、壁を背にした怪物に拳銃を突きつける。
「建物内での使用は危険です」と言う警告音声を無視して拳銃をぶっ放した。
怪物は後ろの壁もろとも砕け散る。警備員は爆風に吹き飛ばされて気絶した。
拳銃が発射したのは弾丸ではない。拳銃の実包・カートリッジサイズのロケットミサイルだ。拳銃のように連射できるが威力は桁違いである。拳銃には撃鉄も排莢口も無い。
発射されたミサイルはロックオンした標的に飛んでいき、撃破する。AIとセンサーを備えていて、狙った標的は外さない。新開発の炸薬のおかげで戦車をも破壊する威力を持っていた。
ガードナーの耳にも、D棟の方からの爆発音が聞こえた。大変なことが起きている!?
キーワード音声認識でヘルメットを装着する。
ガードナーは叫んだ。
「変身!」
背中に折りたたまれていたヘルメットが展開する。
頭の後ろでカニの足のようなパーツがガバッと広がり、次の瞬間、襲いかかるように頭と顔を包み込み、フルフェイスヘルメットが完成する。赤い差し色がアクセントだ。
その姿はまるで200年ほど前の特撮ヒーローのようであった。
ヘルメットに複数設置されたカメラセンサーからコンピュータ処理されて網膜に映像が直接投影されるので、ヘルメットを装着していないときと同等の視界を確保している。
脳内で特撮ヒーローの主題歌が鳴り響く。
脳内にデバイスか何かが埋め込まれてるとかではない。ただの想像とか妄想の類だ。
自分はヒーローだと思い込んでおかなければ、恐怖が勝って、冷静な判断ができなくなるのだ。
D棟に近づくと、建物の横に1体の怪物がいた。距離は500メートル。
脳内BGMが怪獣映画のものに変わった。
周りに人はいない。
ガードナーは拳銃を構え、ミサイルを発射する。
怪物はヒョイとよけた。
外れたミサイルは上昇に転じ、回転ジェットコースターのように円弧を描いて怪物の真上から命中し、爆発する。
他にも怪物がいないか探さなければならないが、植栽や建物が邪魔をして遠くが見渡せない。ネットワークが使えないので、このままではこれ以上の探索ができない。
ガードナーは左腰から小さなガジェットを取り外し手のひらにのせた。
こんなこともあろうかと、開発部に無理を言って造ってもらったものだった。
「ホッパー起動!」
ガジェットはドローンに変形して上空へ飛び上がっていく。
AI搭載で自律飛行できる優れものだ。光無線通信を使うので妨害電波が有っても問題ない。
ホッパーは各種センサーで怪物の姿を捕らえた。
目の前にスクリーンが現れ、各種情報がAR(拡張現実)で目の前に映し出される。
数は三体。まだ人のいる場所には行っていない。今のうちに退治しなければならない。
三体をロックオンして、銃を上空に向けて3発放つ。
空に放たれたミサイルは弧を描いて標的に下降し、爆発した。
噴き上がる爆煙を背にしてポーズを決める。理由は無い。ただやってみたかっただけだ。
他には怪物はいないようだ。
島のどこかに設置されているはずであろう妨害電波発生器を破壊して本部に連絡を取らなければならない。
おそらく、本部が異常を察知して救援に来るほうが早いだろう。
……ガードナーはこの後、辛い現実に直面する……
D棟に大穴が開いているのを見つける。怪物たちはここから出たのだろう。
建物に入ると中は地獄絵図だった。
研究員や職員、IRMO警備員が倒れていて、その中にクラフトがいた。
「クラフト!おい、しっかりしろ!!」
クラフトを揺さぶってみたが、もう既に絶命していた。怪物にやられたのは一目瞭然だった。
ガードナーは涙を流した。そしてクラフトの姿に幼馴染の姿を重ねていた。
「ルー…お前も怪物を創りたいのか……?」
海面を血のように真っ赤に染めて太陽が沈もうとしていた。
AR=「Augmented Reality」(拡張現実) CG(デジタル情報)と実際にある画像や映像(現実世界)を組み合わせて、現実の世界に仮想空間を作り出す技術
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