4話 バイオテクノロジー
バイオテクノロジーの分野では紀元前からの品種改良に始まって、20世紀末には遺伝子組み換え食品が人々の食卓に上るようになる。
クローン技術も登場したが、遺伝子組み換え食品ともども、批判が殺到した。
20世紀の終わりにクローン羊が誕生すると、ただちにクローン人間を作成することが禁止される。
一方でiPS細胞など万能細胞の研究やアンチエイジング技術は歓迎され、人間の寿命は技術の発達と共に延びていく。
21世紀になりヒトゲノムの解読に成功、さらに遺伝子を人工的に合成した人工細胞-合成生物を創り出していく。
小説家は言葉を組み合わせて、文章をつくり、一つの作品に仕立て上げていく。
それと同じように科学者は遺伝子を組み合わせて新しい生物を合成することが出来るようになっていった。
小説家にとって小説を書くことはレゾンデートルであるように、一部の科学者にとって合成生物を創ることはレゾンデートルなのだ。
しかし、この技術は世間から強い批判を受ける。生態系を壊すとか、神の領域を侵すなどと反発された。
そこで、合成生物が生態系を侵蝕しないようにと研究所は陸地から離れた人工島に建設された。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2173年
IRMO(国際危険管理機構)の幹部候補生であるガードナーはハワイ諸島沖の、直径5キロはある人工島の生命工学研究所に研修で来ていた。
IRMOの防護服を装着したガードナーは、VTOL発着場で機械やロボナーの整備員を見送っていた。
整備員は1週間交代制で人工島へ点検整備に来るのだ。
飛び上がったVTOL機の中で一人の整備員が「Wrath of God」と、呟きながら口の端を歪ませて薄笑いを浮かべる。
ガードナーは丁度休憩時間になったので引継ぎ連絡を済ませて休憩室に向かった。
休憩室に入ると入れ替わりに研究員のクラフトが出ていくところだった。
クラフトは恐竜が好きで、ガードナーも好きなほうだったので話が合って仲良くなった。
「これからまた研究かい?」
「ああ、やる事がまだいっぱいあるんだ」
「気を付けて」
「ありがとう」そう言ってクラフトは出ていった。
部屋の中にはガードナーのロボナーのルルが居た。任務中はここに居るように指示している。
「ルル、お茶を淹れてくれ」
「了解」
ガードナーはメタリックグリーンの防護服を着たまま椅子に腰かける。
防護服の背中にはヘルメットが平たく折りたたまれており、装着者が設定したキーワード音声認識で瞬時に頭と顔を覆えた。
平常時にはヘルメットを装着することはない。この技術は民間に広く普及しており、オートバイや自転車に乗る人や危険な場所で作業する人たちに使われた。
ゆっくりとお茶しているところに、突然ルルが異常事態を告げた。
「広域ネットワークも島内ネットワークも不通になりました。システム障害が起きています」
「わかった。見てくるからここに居ろ」
「了解」
休憩室を出て設備棟に向かう。
それにしても、島内ネットワークのみならず広域ネットワークまで使えないというのはおかしい。妨害電波でも出てるのだろうか?
同じころ。
D棟では機械顔のロボナーが勝手に合成生物の飼育室の扉を解錠している。
「おい、何してるんだ!やめろ!!」
クラフトが叫んだが時すでに遅し。不気味な音を立てて扉が開いた。
ようやくストーリーが動き出しました(;^_^A
これからガードナーくんが大活躍します。
舞い踊るミサイル!噴き上がる爆煙!!
次回 怪物
お楽しみに。
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レゾンデートル=自身が信じる生きる理由、存在価値
他者の価値と比較して認められる存在価値ではなく、あくまで自己完結した価値を意味する
iPS細胞=人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)骨・心臓・肝臓・神経・血液など、その他人間の体を構成するどのような細胞にも分化する「万能性」を持った細胞