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最終話 バイオクリエイター

国粋主義=自国の歴史・政治・文化などが他国よりもすぐれているとして、それを守り発展させようとする主張・立場

 ミコたちの乗る宇宙船がアルケブランに接近すると監査団の宇宙船と正体不明の宇宙船を発見した。

 正体不明の宇宙船にはルーファンたちが乗っていた。

 ルーファンたちの宇宙船に接舷(せつげん)するとミコたちはすぐさま乗り込んだ。

 

 「ルーーー!」

 ルーファンを見つけるとミコは泣きながら駆け寄って抱きつきキスをする。

 いつまでたっても離れない。

 察した周りが二人を手近な個室に押し込んだ。

 

 

 アルケブランを滅ぼす決定が下されたことを知らせる通信を受信してからすぐ、ルーファンたちはアルケブランの生物を救う計画を立てた。計画がバレることを防ぐために返信はできなかった。

 

 研究データは全て破棄されていたのでアルケブラン上の生きている生物から直接サンプルを採取せざるを得なかった。

 

 それぞれの生物の雌雄の遺伝子データさえあればその生物を復活させることができる。蚊サイズのドローンなどでサンプルを収集していった。そしてアルケブラン人の全7部族からそれぞれ男女を選び出して冷凍睡眠させた。

 

 それらすべてを収容した大型宇宙船を建造し、ジャガーノートが着弾する前にアルケブラン上から飛び立ち衛星軌道上を周回した。監査団の宇宙船は何もしてこなかった。

 

 

 「君たちが無事でよかった、本当によかった。」クレイブは言った。

 「生物の遺伝子データを採取して保存しています。ほとぼりが冷めたら地上に戻したいと思っています」と、ルーファンは言った。

 「それは素晴らしい考えだ!ぜひ私たちにも手伝わせてほしい」

 

 この動きに対して監査団は何もできなかった。なにしろ科学者たちは合計200名以上いるのに自分たちは15名しかいなかったし、何の武器も持っていなかった。多勢(たぜい)無勢(ぶぜい)である。

 

 放射能を除去する処置をしてから生物を大地に戻していった。

 当然、ガードナーたちSRMOは反対した。

 まさか遺伝子データを保存しておくとはガードナーも思っていなかった。断腸の思いで滅ぼしたのに元の木阿弥(もくあみ)ではないか。

 

 しかし、制止手段が何もないうえに、再度ミサイルを撃ち込んだとしても、また保存して再入植されたらイタチごっこになるのは目に見えていた。

 

 軍隊を編成してアルケブランに送り込み、科学者たちを制圧するという案も出たが、アルケブランと地球との戦争に発展しそうな案を戦争嫌いな世論と国際政府が許すはずがなかった。

 

 そこで自衛手段を徹底しつつ、アルケブラン人が自滅するか平和的になるかを期待してとりあえず様子を見ることになった。

 

 

 このことを受けてマキナは熟考(じゅくこう)する。

 アルケブラン人の攻撃性を無くすことはできなかったか?最初から平和的な人間を創ることはできなかったのか?

 しかしすぐに、これは愚かな考えだとマキナは気付く。

 

 攻撃性が無ければ猛獣などに襲われても反撃できないし、食糧となる獲物を狩ることもできない。とうてい生き残ることは出来ずに死に絶えるだろう。

 生き残ろうとする意思と攻撃性・暴力性は表裏一体かもしれない。

 

 それならば人間にだけは攻撃的にならないようにプログラムすればいいと思うだろう。しかしそれは良心という形であるのだろう。

 

 人が人を攻撃するときは、相手を同じ人だとは思っていない。鬼畜だとか未開人だとか劣等人種だとか。肌の色が違うとか身分が違うとか宗教が違うとか言語が違うとか。

 『()()()()()()()』と考えることで攻撃できてしまう。

 

 他人を(さげす)むことでしか自分の自尊心を満たすことができない人がいる。

 (おのれ)の自尊心を満たすためだけに自分の民族を一番と考える腐れ国粋主義者(ナショナリスト)臆面(おくめん)もなく言う。「我が民族は優秀。他の民族は劣っている」と。

 

 平和的な人間とは、攻撃性・暴力性が無い人間ではなく、それを制御できる人間のことをいうのだろう。制御するのはその人間自身にかかっている。外から制御できるものではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いつかアルケブラン人は「自分たちが攻撃的・暴力的なのは創った者の責任だ。たとえ自分たちが悪いことをしたとしても自分たちは悪くない」と言うだろうか?

 

 しかしそれは幼児の考え方だ。マキナは遥か遠い昔の子育てした経験を思い出す。

 何かにつけ、幼児というものは「パパが悪い、ママが悪い」と言い張る。

 自分が良くないことをしたにもかかわらず。

 

 いつかアルケブラン人も大人になるだろうか?そうでなければ親も同然のルーファンが可哀(かわい)そうだとマキナは思った。

 

 幼児がいつまでも幼児のままでは親は悲嘆(ひたん)に暮れるだろう。

 

 

 あるいは「我々は()()類人猿を遺伝子改造して、奴隷として宇宙人に創り出されたのだ」と言い出すかもしれない。しかし、ロボットで事足(ことた)りるのにわざわざ奴隷を創り出す必要がどこにある?宇宙を航行する技術を持っているのにロボットも創り出せないと思っているのだろうか?

 実際に民衆を奴隷にしていたのは当時の支配層だろう。神から民衆を奴隷にする権利を授かったと称して民衆を支配したのだ。それを神や宇宙人に責任転嫁しているだけなのだ。

 

 「自分たちは(宇宙人に創られた)奴隷なのだ」とアルケブラン人が考えているのなら、ルーファンは呆れ果てることだろう。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 ルーファンたちのチームも軟禁を解かれ、弁明のために地球圏に戻ってきた。

 

 およそ一万年ぶりにルーファンとガードナーは再会した。

 「とりあえずは無事で良かった」ガードナーは心から親友との再会を喜んだ。

 

 「やっぱりアルケブラン人は危険だと思う?」と、ルーファンは問う。

 「もし地球に攻めて来たら容赦しない。まあ、その前に自滅するというのが今の主流の考え方だがな」

 「僕はそうは思わない。必ず平和的になって自滅を回避すると信じてる」

 「えらい自信だな」

 「僕たちが一生懸命創ったのだもの」

 「そうか…」

 そうなるならその方がいい。ガードナーは(ひそ)かに親友の望みが(かな)えばいいなと思った。

 

 

 僕たちの子供はそんなに愚かじゃない。絶対に攻撃性をコントロールして平和的になり、アルケブランを飛び立てるほど発展してくれると信じてる。

 

 クレイのときは失敗したけれど、いつか必ず自分たちのことを神ではなく同じ人間であると説明し、理解してもらいたいとルーファンは思った。

 

 

 「とりあえずそれは置いといて、親友と無事再会できたことを(しゅく)したいんだが付き合ってくれるか?」

 「ありがとう、喜んで!」いろいろやらかした僕を、変わらず親友と呼んでくれるガードナーに感謝した。

 

 「マキとミコも呼ぼう」

 「マキちゃんにはいろいろ怒られそうだなあ」

 「観念するんだな」ガードナーは笑って言った。

 

 

 ルーファンは遥か未来に思いを()せる。

 ルーファンたちがそうしてきたようにアルケブラン人もゆくゆくは他の星に(おもむ)き、生命を創造する。

 

 彼らもまた、バイオクリエイターになるのだ。

 


 

 この作品を最後まで読んで頂いた方々、感想・レビューを書いて頂いた方々、高評価して頂いた方々にお礼申し上げます。


 今の時代はゲームでお金さえつぎ込めば無双できたり、転生でチートもらって無双する努力とか忍耐とは無縁な他力本願なのが受けてるから、世間から非難されようとも自分のやりたいことをやり抜くために、いばらの道を歩き続けるルーファンの生き様は共感を得にくいでしょうね。でもしょうがない。そういう話を書きたかったんだから。

 

 この作品は完全なオリジナル創作物ですが『地球人は科学的に創造された』から着想を得ました。

 また『ルナグラス・マーズグラス』『ブレークスルー・スターショット』『インテリジェント・デザイン』『トランスヒューマニズム』などを参考にしました。

 

 

 

 マキナ「アルケブラン人に私たちのことを説明したいと言うけど、理解するかな?()()創造者とか呼ばれるぞ」

 

 ルーファン「いじめないでよ~(>_<) 理解できるアルケブラン人もきっとたくさんいるよ~」

 

 

    おしまい

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