19話 ジャガーノート
ジャガーノート(ジャガナート・juggernaut)は、止めることのできない巨大な力、圧倒的破壊力の意味を持つ単語。大きすぎる犠牲、盲目的な献身を強いるものという意味も。
クレイを同族のいる安全地帯に運び、マキナは帰っていった。
クレイは同族にこれまでのことを話すが、同族にはチンプンカンプンでまるで理解できなかった。人間が人間を創り出す?そんなことできるわけない。神が創ったに決まってる。こうして伝承は変形していく。
アルケブランの科学者たちは研究データを全て破棄され、ルーファンのチームを除いて全員地球に強制送還されることになる。
ルーファンのチームは刑罰として監査団の監視の元にアルケブランに軟禁された。
マキナも一緒に地球に帰り、生身に戻ることにする。必要なデータも充分取れたし存分に楽しんだ。
帰りの宇宙船ではルーファンと離ればなれになったミコを宥めるのが大変だった。アルケブランに居た頃はすぐにでも気軽に会いに行ける距離だったのだが。
マキナのリバイブにはガードナーも立ち会う。
リバイブ装置からマキナが出てきた。
マキナとガードナー、しばし見つめあってから抱擁する。
「ガードナー、この後予定は空いているかい?生身に戻って君を見たら凄く遊んでもらいたくなった。ロボットのときはこんな気持ちにはならなかったのにな」
「ああ、たっぷり空けてあるよ」
「それは良い。久しぶりにたっぷり楽しませてもらおう」
そんなことをしゃべりながら二人はリバイブ施設を後にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
クレイから何世代も経て人口が増え始めたころ、アルケブランに変化が起こる。
狼煙が上がったのだ。
戦争時代の始まりであった。
全7部族間や同族間でもお互いに殺し合い、負けた側を皆殺し、あるいは奴隷にした。
虐げられていた部族でもひとたび力を持てば虐げるほうにまわった。
神に勝利を祈り、神のためにと言いながら人を殺した。実際には神という概念に人殺しの責任転嫁をしているだけなのだが。
「神が命じたから敵を殺した。自分に人殺しの罪は無い」と、平気で信じている。
非暴力を説く仏教でさえ、かつて僧兵というものが存在し、仏罰と称して敵対者に暴力を振るったのだ。
SRMO監査団はアルケブラン人が好戦的な証拠を着々と集めていった。
ガードナーは思う。アルケブラン人は姿は人間だが中身は怪物だ。
トラピスト人の爪の垢を煎じて飲ませたいところだ。
「ぼくは怪物なんか創らないよ」親友が大昔に言った言葉を思い出す。
本人が目の前にいたら、噓つきと詰ってしまいそうだった。
このままアルケブラン人が発展すると好戦的なまま宇宙征服を企てる可能性が指摘された。
国際政府は反対意見もある中でアルケブランを滅ぼすことを決定した。
創造されたものとはいえ、生命あるものを滅ぼすのは躊躇われるのだが、ガードナーは地球人類の危険に対しては情け容赦をかけるわけにはいかなかった。
地球にはガードナーとマキナの子孫が住んでいるし、ルーファンとミコの子孫も居るのだ。
ガードナーにとっての正義は地球人類への危険を排除することだ。
地球人類だけでなくトラピスト人にも危険が及ぶ可能性があるとなると、創り出した者の責任において処分せざるを得なくなる。
正義のためなら鬼となる。
ガードナーは自分にそう言い聞かせた。
光速の50パーセントで航行できる恒星間巨大核ミサイルが10年がかりで開発され、ジャガーノートと名付けられた。
決定が下ってすぐ、地球圏に戻っていたミコやクレイブたちはルーファンたちを救うためにアルケブランに向かうことにする。その数は167名に上った。
誰もが本当はルーファンのようにアルケブラン人に真実を告げたいと思っていたのだ。
地球圏に戻ってきたときの宇宙船がそのまま利用できた。
SRMOに邪魔されるのではないかと思われたが見逃された。
実は裏でミコとマキナがガードナーを説得していたのだった。
最初にルーファンに通信を試みたがいつまでたっても返信はなかった。(ちなみに量子もつれを利用しても光速を超える通信はできない。アルケブランに通信が届くのは11年先である。もし、光より速いモノが発見されたら話は別だが)
決定をミコにリークしたのはマキナで、マキナはガードナーから話を聞いた。
ガードナーはマキナからミコを通してルーファンに情報が行くことを目論んでいた。ミコとマキナが説得に来るであろうことも織り込み済みだ。
アルケブランと一緒に滅んでほしくなかったのだ。できればアルケブランの地表から退避してほしかった。監査団にも手出し無用と連絡した。
ミコたちの宇宙船が出発してしばらくしてからジャガーノートが発射された。
宇宙船の横を急行列車が鈍行を追い越すようにジャガーノートが通り過ぎていく。
「お願い、ルー…無事でいて…!」ミコは祈るように呟いた。
ジャガーノートが減速もせずにアルケブランに着弾した。全生命は破壊された。
アルケブランが滅亡してから、トラピスト人から遺憾の意を示すコメントが届いた。トラピスト人はアルケブランの生命を惜しみ悲しんでいた。
これから先、戦争をしている未開人の星を発見するたびにすぐさま危険だからと滅ぼしてしまうつもりなのだろうか?
宇宙に進出する前は、実は我々だってお互いに争っていた。地球人もそうでは?
戦争している星を危険だからと滅ぼしてしまうなら、21世紀の地球でも滅ぼされてしまうだろう。
このコメントを受けて地球の世論は揺れ動いた。早まったのではないか?やり過ぎたのではないかと。
ガードナーとしては、そんな考えは甘いと思っていた。 アルケブラン人が地球に攻めてこないという保証はどこにもないのだ。
明日、最終話を投稿します。
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