18話 模擬戦
マキナたちの前にSRMO監査団が姿を現した。やはり30メートルほどの巨大ロボットが3機。クレイが恐竜の餌食になるのを見届けるために監視していたのだが、マキナ博士が出てくるとは思わなかった。
コクピットの中で、悪戯にも程があると団長は思った。いつもはたわいない悪戯や、からかい程度で微笑ましいものなのだが。
「マキナ博士、その男を渡してください」と団長が言う。
「断る」素気無くマキナは言う。
「悪戯はやめてください」
「悪戯ではないよ。実力行使でくればいいじゃないか?」
マキナはカンフーのポーズをとって手招きする。「さあ、模擬戦と洒落込もうではないか。一本取れたら渡してやろう。クレイが欲しければかかってこい!」
客室に重力制御を効かす。急加速と急制動で発生する超強大なGを相殺してクレイがミンチになるのを防ぐ。
重力制御…21世紀ではまだ理論構築すらできていない夢の技術だが、一万年もあれば実現できてるだろう。多分。……まあいいや、作り話だし。
「仕方ない…行きますよ!」科学者が戦闘訓練を受けた者に敵うはずがない。これで懲りてくれるだろう……そう団長は思ったのだが……
団長、ロッドを取り出して、何度も攻撃繰り出すが、マキナはすべて受け流す。
右上段に振りかぶりマキナの左の上段へ、えいやとロッドを振り下ろす!
左腕に付けたシールドで相手のロッドを受け止めて右の拳を撃ち込んだ!
翻筋斗打って団長は後ろに吹っ飛び倒れこむ。
重力制御のおかげでコクピットの中の団長はノー・ダメージだ。
「リバイブしたてのひよっこが、私に勝とうなど一万年早いわ!」…このセリフを言ってみたかったのだ。
実際、彼女は一万年以上生きている。
一万年の間、趣味と運動を兼ねてカンフーの練習をしてきたのだ。ガードナーとも何度も手合わせした。塵も積もれば山となる。
「くそ、ロリババアめ!」気が動転して口が滑る。しまった!
「あー!悪口言ったな!!ガードナーに言いつけるぞ!!!」
「ごめんなさい」悪口言った自覚はあるので素直に謝る。
人を傷つける目的で悪口を言うような性格の人間はリバイバーには相応しくない。
友達をからかうくらいは問題ないが。
「まあいい。ところで、科学を教えられたアルケブラン人に関しては私にも口を挟む権利がある。SRMO監査団がやり過ぎないように見張ってくれとガードナーから依頼されているのだ。その目でしかと見よ」そう言って依頼証明を送信してきた。
…そういうことは最初に言ってほしかった。
「心配するな、もし危険なら私が処分するから」
今凄く物騒なこと言った!クレイは恐れ戦いた。
SRMO監査団が為す術なく見送る中、マキナたちは遠ざかっていった。
さて、ルーファンには「助ける」と言ったものの、もし科学知識と科学への理解が危険なレベルならどうにかしなければならないのだが……
「ところでマキナ様はやっぱり神様ではないのですか?」と、クレイが聞いてきた。
「いや、人間だよ。今はこのロボットが私そのものなんだがね。死んだタイミングでロボットの電子頭脳に精神データを移植してな、意識をエミュレートしているのだ。莨を吸う必要はないがね。この姿はCGの立体映像だよ」すべて科学の力だ。
クレイ、しばし考えて言った。
「死んでから魂がろぼっとに乗り移ったということですか?」
……うん、大丈夫そうだ……
「転生!転生というやつですか!?」
「もういい!それ以上しゃべるな…」
……全然科学的に理解できてない。
スピリチュアリズムは科学の敵だ。
旅の道中、マキナは気になっていたことをクレイに尋ねる。
ルーファンはクレイが恨みを持っていると悲しんでいた。
子も同然のアルケブラン人に恨まれたら親も同然のルーファンとしては悲痛の極みだろう。
「なあ、クレイよ、やはり私たちを恨んでいるか?」
「そりゃあ恨みますよ。あなたたちを神だと信じ込まされて、なおかつ、まるで危険な生物のように扱われて、挙句の果てに捨てられて」クレイは素直に答える。
「そうだな。しかしこれだけは理解してほしい。そうでもしなければお前たちは即刻処分されていたんだよ。そもそも人間を創り出すことは禁止されていたんだ。私たちを神だと信じ込ませることで私たちへの反抗心を抑え、アルケブラン人の延命を図った。お前たちに反抗されたら私たちが危険になるからな」と、マキナは申し訳なさそうに言うのだった。
エミュレータ(Emulator)又はエミュレーターとは、コンピュータや機械の模倣装置あるいは模倣ソフトウェアのことである。エミュレート(動詞)ともエミュレーション(名詞)ともいう
正月休みでラストまで書けたので、明日に19話、明後日に最終話(20話)を投稿します。
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