16話 ファーストコンタクト
アルケブランでルーファンたちが生命創造に夢中になっている頃。
地球では宇宙人とのファーストコンタクトが始まろうとしていた。
みずがめ座の方角から太陽系に向かって光速の20パーセントほどで移動する物体が頻繫に観測されるようになった。
地球からも無人探査機をみずがめ座の方角へ送り出していた。
どうやら太陽系からみずがめ座の方角に約40.5光年の距離に位置するトラピスト星の惑星に知的生命体が存在するようだった。
とうとう地球側は有人探査船をトラピスト星へ派遣することを決定する。
この頃、有人船の最高スピードは光速の10パーセントを出せるようになっていたので、600年ほどでトラピスト星へも到着出来ると見積もられていた。
太陽系を出発してから400年ほど経ったころ、トラピスト星の方向から光速の5パーセントほどで移動する物体を観測した。
今まで観測されていたものよりも遥かに大型だったので有人宇宙船と推察された。
そこで軌道修正を行いUターンしてそれに接近してみることになった。
速度を相手に合わせてギリギリまで接近する。
通信を試みるが何も反応が無い。
あらゆる周波数帯域を使ってみた結果、人間に聞こえない高周波(超音波)を使うことがわかってきた。
後でわかったことだが、逆に向こうもこちらの声が聞こえなかった。
翻訳装置が開発されるまで意思疎通がほとんど出来なかったが、少なくとも向こうにこちらを攻撃する意図は無いことはわかった。
とうとう相手の宇宙船に接舷することに成功した。
いよいよ地球外知性体、宇宙人とのファーストコンタクトが始まる。
宇宙危険管理機構(SRMO)総長のガードナーからは相手がどんな姿をしていようとも絶対に攻撃をしてはならないと厳命されていた。武器や武器になりそうな物は一切所持を認められなかった。万が一のことが起こっては取り返しがつかないからである。
地球側の過失で宇宙戦争に発展したら洒落にならない。
コンタクトするスタッフにとっては危険極まりない任務のため、ガードナー自身が現場指揮を取りたがったが、幹部達に猛反対された。
暫定的にこの宇宙人をトラピスト人と呼ぶことになる。
トラピスト人は怪物としか言えないような姿をしていた。
地球のどんな生物にも似ていない。強いて言えば蜘蛛か。腕が4本、足が4本ある。宇宙服のようなものを着ているので正確にはどんな姿をしているのか解からないのだが。
トラピスト人は時々身体を震わせるしぐさをした。
こちらはとにかく笑顔で接する。昔の映画などで他の国から派遣された軍隊が地域住民との信頼関係を築くときに笑顔が大事になると描いていたことを知っていたからだ。
後でわかったことなのだが、身体を震わせるのは彼らにとっての笑顔だったのだ。
トラピスト人は平和的だった。同族だけでなく他の生物も大事にする。姿は怪物なのに。
なので、戦争による自滅も環境破壊も免れたらしい。
思えば地球も同じ歴史をたどってきた。
21世紀に入っても戦争に明け暮れ一万発以上の核兵器を保有し、いつ全面核戦争が勃発しても不思議ではなかった。むしろ核戦争による自滅を回避できたのは奇跡と言えた。
民衆がいつまでも隣の民族、隣の国を敵対視していたなら確実に自滅していただろう。(この小説は作り話なので自滅を回避できたことにしてるけど、こういうことに無関心なようならばマジでヤバイかめ… かもね)
宇宙に進出できる者は平和的になる?そう考える者も現れていく。
トラピスト人との交流は友好的に進展し、互いの惑星へ友好使節団が派遣されるようになっていった。
時は過ぎ、トラピスト人との交流が民衆レベルでも活発になってきた頃。
マキナは老衰で寝たきりになっていた。10回目の死が近づいている。
コンピューターと無線接続になっているので最初の頃のように直接繋がれることはない。
一足先にリバイブした若いガードナーが見舞いにくる。
「体の調子はどうだい?」
「今日はだいぶいい感じだよ」
二人はたわいのない会話を楽しむ。
「…ところでやっぱりあの計画を実行するのか?」
「ああ、科学者の性だよ。試してみたくて仕方がない」
「まったく、科学者というのは…」
「どうした?」
「ルーたちが人間を創り出しそうなんだよ。禁止しているが言うこと聞かないだろうな。危険になるのは自分たちなのに」
片道燃料で追放するように送り出した歴史があるから、禁止しているとは言ってもあまり強制力は無いのだ。
「危険が及ばないようにすればいいのだろう?自分たちが相手と同等の存在だと思うから抵抗するんだよ。だから科学者たちはより高位的な存在を演じればいい。神秘的で太刀打ちできない神を演じさせるんだ。なおかつ科学を教えないようにすれば抵抗手段もないから反抗してくることはないだろう。特に科学を教えないことは重要だ。科学を教えたら自分たちが科学的に創造されたことを理解し、科学者たちが神でないことがバレてしまうからね」
一緒に付いてきていたルルが「そろそろ会議の時間です」と告げる。
「そろそろ行かないと…」ガードナーが名残惜しそうに言う。
「ガードナー、抱きしめておくれ…」
アニーが手伝ってマキナの上体を起こした。そしてしばらくの間二人は抱擁していた。
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