11話 宇宙
ルーファンは宇宙空間に浮かんで携帯ゲーム機で遊んでいた。
新型宇宙服の実証実験をしているのだ。
宇宙服の頭から背中・お尻一面に直径2.3メートルの巨大なボールがくっついている。
休憩するときはそこに入る。食事もできるし、大きな漏斗のようなバキューム式トイレで用もたせる。
ルーファンはそこで暇つぶしにゲームをしていたのだ。
マキナ博士設計の救命ボールを兼ねた宇宙服だ。
日本の母衣に似ているので通称ホロと呼ばれる。
携帯ゲーム機から着信音が鳴った。ゲームを止めて応答する。
「ホロの具合はどう?」ミコからショーンを介して通信が入った。
「なかなか快適だよ。今のところ問題ない」
「もう時間だから帰ってきて」
「わかった」
ルーファンは宇宙服部分に足と腕を通して身を沈める。
スラスターを操作してスペースコロニーに帰った。
スペースコロニーは3基あり、それぞれに生活のための1Gと、研究のためタイタンの重力に合わせた0.14Gのコロニーが逆回転で回っている。
まず、0.14Gのコロニーに入って、体を慣らす。
「72時間宇宙に居た気分はどう?」ミコが聞いてくる。
彼女は初めて出会ったころと変わらず若く美しい。
「暇だった。君に会えなくて寂しかったよ」
「甘いセリフ言っても何も出ないわよ♡」と言いながらも何やら嬉しそうだった。
数日後にクレイブ代表の誕生パーティーがささやかに開かれた。
「500歳の誕生日おめでとうございます!」
最初に構想を聞かされてから450年経っていた。
アンチエイジングのおかげで、あの頃と姿は変わらない。
「ありがとう。みんなの努力のおかげで近々タイタンに降りることができそうだ。研究は次の段階に進む。」
万雷の拍手が鳴り響いた。
タイタン上では、ロボットたちの建築で巨大な構造物『タイタングラス』が出来上がっていた。構造的にはルナグラス・マーズグラスと同じものだ。
その見た目から、通称釣鐘と呼ばれた。
この中で通常の生活をしながらテラフォーミングを進める研究を続けていくことになる。
ロボナーもバージョンアップしていき、自己再生する素材で皮膚がつくられるようになったので継ぎ目が無くなりリングが消えた。
駆動音は全く聞こえなくなり、疑似心臓音や呼吸をしているように見える機能などが搭載されていった。
タイタン上では地上用のホロが活躍した。ひとまわり小さく、背面の球の大きさは1.5メートルほど。バキューム式トイレはオミットされ、21世紀から使われている携帯トイレを中で使った。スラスターもなく活動時間は24時間ほど。
バランスを保つため、かかとの後ろが長く伸びている。新素材のおかげで重量200キロしかないが、タイタン上では30キロほどだ。
パワーアシスト機能付なので作業効率と快適性は上々だった。
しかし、釣鐘の外は地球と全く環境が違うので、研究自体は難航を極めた。
釣鐘の外で作業する時間は一日6時間以内と決まっていたが、研究に熱中して誰も守らなかった。
思うようにならないまま、時間だけがどんどん過ぎていく。
さらに450年が過ぎたとき、ルーファンは地球に居た。
母衣=鎧の背にかけて流れ矢を防ぎ,あるいは装飾にした袋状の布
ルナグラス・マーズグラス=地球と同じ1Gの重力環境を、月や火星などの低重力天体に人工的に再現できる多層階建築物の構想。巨大なグラス型施設となっており、杯の部分を回転させることで遠心力による擬似的な重力を発生する
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