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閑話 里側

 巫女を森の主のもとに送り込んでから、おおよそ二日が経った後のことでした。

 フォールの手紙を届けるために森の主が里を訪れると、すぐに里中が騒がしくなりました。

「我らが守り神様、いかがなさいましたか?何か巫女の振る舞いに粗相がございましたか?」

「服を返しに来ただけだ」

「それはようございました。もし何か粗相を働いていたら、私めの命で責任を取らせていただくつもりでしたので」

 里長の本心から出た発言からわかるように、もし二人が里に帰ったならば、かつての二の舞になっていたことでしょう。

「そうか、それならば心配いらぬ。巫女は見事であった。大儀であったぞ」

「きょ、恐悦至極に存じます」

 賛美の言葉に喜びを隠しきれない里長を放っておいて、森の主は目的のためにフォールの両親を探しました。

「それで巫女の両親はどこだ」

「…ここに」

「巫女の服だ。受け取ったか」

 名乗りを上げたフォールの両親、ニーロとハンナの明らかな敵意のこもった瞳を意に介さず、服の受け渡しを済ませた森の主は去っていこうとしました。

「此度の贄は見事であった。この里にはしばしの平穏と繁栄を約束しよう。さらばだ」

 するとそこに、森の主を呼び止める声が発せられました。

「一つよろしいでしょうか?」

 その声を上げたのはリッタの父親のオリヴァーでした。

「許す」

「若い男が一人来ませんでしたか?」

「…ああ、殺した。要件はそれだけか?」

 射殺さんばかりの目で睨みつけるフォールの両親と、気力の感じられないリッタの両親を尻目に森の主は去っていきました。

「オリヴァーよ、リッタの代わりの者を育成しておくように。猟師の後を継ぐ者がいなければこの里が困るのでな」

「…承知、しました」


 娘の形見の服を大事に持って帰ったフォールの両親は、家に着くと黙々と服を片付けようとしました。

「?これは!ニーロ、ニーロ来て!」

 すると、きれいに畳まれた服の中から一枚の手紙が出てきたのです。

 手紙の概要としては二人とも生きていること、里が安全か分からないから旅に出ること、そして両親への謝罪と感謝でした。

「よかった。本当に良かった」

「ああ、生きてさえいればいい」

 二人はその手紙が偽物の可能性を心の片隅で疑っていました。しかし、二人は自分達の娘を犠牲にしてしまったことを後悔し続けるのではなく、わずかな可能性でもいつの日かの再会を頼りにして生きることにしたのです。


「なんであいつは死にに行ったんだ」

 絶望の中に光明を見出したフォールの両親がいる一方で、リッタの家の空気は重く苦しいものになっていました。

 彼らにとってはただの自殺行為のせいで、期待していた、愛していた息子を失ってしまい、里の民はリッタの死を悼むこともなく別の後継者を決めさせようとする。

 里に対する怒り、失望、不信感など様々な感情を抱えたままリッタの両親はこれからを生きていくのです。


 里には不穏な雰囲気が漂っていますが、今後は物語に関与しないので関係ありません。

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