8-2
幼い兄妹を殺めようとしているこの村に対して、二人は悪感情を抱いていました。憤りを覚えたフォールは、兄妹を救う方法を考え、恐怖を感じたリッタは、村から逃げ出すための方法を考えていました。それに加えてリッタが気になっていたのは、この村の人々がどの程度戦えるのかについてでした。今のところ、村人達は警戒していない様子でしたが、もし村人達と敵対したときに勝てるのか、二人とも無事に逃げ出せるのかどうかを、リッタは心配していました。
そして、同行する村人が立ち去った後、二人は改めて幼い兄妹のもとを訪れていました。粗末なつくりの牢屋に閉じ込められていた兄妹は、相変わらず生気のない瞳で二人を眺めていました。
「大丈夫?」
「…」
「あなた達はどこから来たの?」
「…」
フォールがいくら話しかけても、二人に対して警戒心を隠しもしない兄妹は、何も言うことはありませんでした。そんな、何を聞いても答える気のない兄妹に万策尽きた二人は、これ以上の滞在は怪しまれると思い、一度引き返すことにしました。
「また来るから」
「…」
牢屋のある家から出たフォールは、兄妹との距離を縮める方法を考えながら、それまでの間を過ごすための宿を探し、その後、無事に宿泊する宿屋を見つけた二人は、宿屋の一室で兄妹を救うために話し合っていました。
「あの子達が私達のことを信頼してくれるようになったとして、私達とあの子達で一緒にこの村から逃げ出せると思う?」
「どうだろ、この村の人達がどれくらい戦えるのか知らないから、何とも言えない」
「無理であろうな。死ぬのが二人から四人に増えるだけだ」
フォールの疑問に答えるように発せられた狼の発言は、幼い兄妹を助けたいという二人の期待に反する内容のもので、二人の顔を曇らせました。フォールはその言葉の意味を信じられず、リッタは既に諦めた表情をしていました。
「ルディ様、それは、本当なのですか?」
「うむ。いや、お前達も旅を通じて実力を付けているのか。であればおそらく、一人か二人の犠牲で済むであろうが、お前達が死に急ぐ必要もあるまい」
フォールの追及に対する狼の返答は、フォールのことをより一層悩ませるのでした。いっそ到底かなわないものであれば、全員死ぬと言われていたら素直に諦めきれたかもしれないのに。そんな中途半端な希望と、長旅の疲れのせいで、この場で結論を出すことはできませんでした。
「そっか。じゃあ、明日もう一回あの子達に会いに行っていい?」
「別にいいよ」
結局、狼の発言にどうするべきなのかを決めきれなかった二人は、もう一度幼い兄妹と話し合ってから、兄妹を助けるのか、見捨てて逃げ出すのかを決めることにし、ひとまず眠りにつくことにしました。
しかし、兄妹に対する二人の気持ちのずれは、今のところは小さいものだったせいで、二人は気づいていませんでした。