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9-3

「今まで言った理由だって、もちろん本当。けれど一番大きかった理由は、フォールに死んでほしくなかったから」

「自分だって危険なのに、どうして私の心配だけしてるの?私以外の人達だって亡くなるかもしれなかったでしょ」

「いや、それはない。きっと最初に死ぬのはフォールだった」

 不思議なほど確信を抱いたままに語るリッタの姿に、フォールは不信感すら抱いていました。自分の行動を正当化するためにそう思っているのではないか、と。けれど、心の中ではリッタのことを信じたいという気持ちもあり、黙って話の続き待ちます。

「フォールはあの兄妹を見捨てなかったと思う。きっと、兄妹が傷つけられたら治そうとした。それに、囮とかに利用することもない。だから、治癒魔法の届かない距離で兄妹を捕らえたり殺すことは難しかったと思う。そうなると奴らもきっと気が付く。俺達を始末するには、先に治癒魔法使いを殺さないといけないってことに」

 リッタは過去の出来事を思い出しながら語っていました。目の前で仲間を斬殺された思い出は、リッタに死への恐怖と治癒魔法使いとの戦い方の知識を植え付けていたのでした。

「何それ。それならもっと早く言ってくれればよかったのに」

「フォールを言い訳に使いたくなかった」

「そんなの言い訳じゃない!」

「言い訳だよ。俺はあの兄妹とフォールを天秤にかけて、フォールを優先した。俺があの兄妹を見殺しにした、見殺しにさせた。…だから、俺には魔王様を責められない。規模が全然違うけど、魔王様が人類より魔族を優先する気持ちも、わかるかもしれない。本当にすごいことだと思います」

 リッタの言葉を聞いたフォールは、リッタが兄妹を助けようとする意思を持っていたことへの安心感、自分のせいでそんなことをさせたことへの罪悪感、兄妹を見殺しにさせられたことへの怒りなどの入り混じった気持ちになっていました。そして、魔王は色眼鏡を通さないで自身を見てくれて、さらには初めてに近い同意をしてくれたリッタに心が動かされていました。

「お前達、席を外せ」

「しかし」

「この二人に興味が湧いた。もう少し本音で話したい」

「御意に」

 リッタの言葉の影響で魔王が配下の者を下がらせました。そのおかげで、二人は少しだけ落ち着いた気持ちになり、魔王の方も威厳を示そうとせず本音で会話ができそうでした。

「それにしても、それだけで余と同じような経験をしていると言うか」

「そんな偉そうなことは言えないけど、俺は魔王様のことを否定できません」

「良い。リッタだったか?余はお前のことを評価している。なにしろお前のような存在は、初めてだったかもしれぬのだ。余の周りにいる者は畏怖か崇拝を。人類の多くは憎悪や敵意を。純粋に同意をされるということは久しぶりだ。存外、心地のよいものなのだな」

 威圧感が緩み素直になった魔王は、柔らかく微笑みリッタのことを見つめていました。そんな魔王の様子を見たフォールは、リッタの人柄はとっくに知っているから喜ばしいはずなのに、見殺しにさせられたことを簡単に許したらあの兄妹のことを軽視しているみたいに思えて、自分の気持ちの整理がつきませんでした。

「改めて、余の、いや違うな。僕の名前はアザゼルだ。既に誰も呼ばぬ名だが、この名をリッタに知っていて欲しかったのだ」

 柔らかい顔で微笑むそれは、とても魔王なんて禍々しいものには見えませんでした。それどころか、友人との距離の詰め方に苦労をする、不器用な性格のいたって普通の存在にしか見えませんでした。

「ああ、こういうときに何を話せばよいのかわからぬ」

 それからリッタは、アザゼルに砕けた話し方を教えたり、取り留めのない話をしていくうちに、アザゼルとの仲を少しずつ深めていきました。そして、その姿を見たフォールは、やはり簡単には気持ちの整理がつかず、様々な感情の間で揺れ動いていました。

「お前はまだ素直になれぬのか。まあそれも良いのであろう。存分に悩むがよい、お前達の生涯はおそらくまだ長い。それでは、さらばだリッタよ。勇者や人類との争いが終わったら、また会おう」

 背負うものの大きさや背負う命の多さから、ただ一人の魔族としてリッタの友人となり平和な暮らしを送ることを選べるはずもなく、魔王として人類と争うことを決めたアザゼルが別れの言葉を言うなり、配下の者と狼が部屋の中に戻って来て、二人と一匹は追い出されるようにして立ち去っていくのでした。

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