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魔王と数人の配下、それから二人が残された場では気まずい沈黙が流れていました。そんな気まずさを誤魔化すようにして、二人は先ほどの男の正体について考えていました。すると、どうやら配下の者達も先ほどの男の正体を知らなかったようで、配下の一人が魔王に正体について尋ねます。
「魔王様、先程の者は?」
「ああ。あれは、邪神だ」
その疑問に返された魔王の言葉を聞いた途端に、フォールの頭は怒りで埋め尽くされました。
「あいつのせいで」
邪神のせいであの兄妹は辛い目に合っている、フォールはそのことで頭がいっぱいになりました。あいつさえいなければ。非道な、人の心を持たぬあの化け物さえいなければ。
「フォール、やめよう。そんなことしても意味はない。それこそ、無駄死にだよ」
怒りで支配されたフォールのことをなだめるためにリッタが発言しても、フォールの頭が冷えることはありませんでした。それどころか、ただの八つ当たりだということは理解していてもリッタに対しても怒りの感情を抱き、リッタにそんなことを言われたいはずも無く、フォールはより一層怒りを募らせることしかできませんでした。
そして、そんな様子のフォールを見た魔王は、当然の疑問を抱きます。
「それで、お前達は何者だ?邪神様が呼んでいたのはあの狼で、邪神様に敵意を剥き出しにするお前達のことを余が生かす理由はあるのか?」
「えっと、理由はないかもしれないけれど、俺達に敵対する意思はないから、見逃してくれませんか」
そんな魔王の言葉に反論することができなかったリッタは、命乞いをすることしかできませんでした。命乞いをしながらも、そんな都合のいいことが許されるのか疑問にも思っていました。
「お前はそこの女と違って、余に敵意を持たぬのか?人類の敵だぞ」
「理由が分からないからです」
リッタの命乞いを聞いた魔王は、敵意を見せないリッタに逃がす価値があるのかどうかを確かめるために質問をしました。そして、リッタはその質問に当然のように返事をしましたが、言葉の意図をその場にいる誰も理解することができませんでした。
「理由とは余が人類と争う理由か?」
「そうです」
「そうか、それならいくつも理由がある。例えば、先代から続いているから、多くの魔族の望みであるから、などだな。その他にもいろいろと理由はあるが、何より一番大きい理由は魔族を守るためだ」
「魔族を守る?」
「ああ。既に争いは続いており、殺し殺されが現状だ。それならば我々が殺されないように奴らを殺す、我々が飢えないために肥沃な土壌を求めて奴らを殺す、我々の生活の発展のための労働人口を確保するために奴らを捕らえる。要するに、余は魔族の平和な暮らしを守るために人類を殺している。魔族の生活を優先して人類と敵対しているのだ。どうだ、敵対視するか?」
「俺には責められないです」
そんな魔王の露悪的な返答に対してリッタが敵意を見せなかったことに、その場にいた全員が呆気に取られるました。そして、魔王はそんなリッタに対して改めてその理由を聞きます。
「なぜだ?」
「俺も一緒だから、見捨てたことがあるからです」
魔王の疑問に対するリッタの返答に対して、驚いた者や呆れた者もいましたが、特にフォールは兄妹のことを思い出し、怒りを再燃させました。
「それなら…なんであんなことしたの。そんなこと言うなら、一緒に助けようとしてよ!見捨てようとなんてしないでよ!そんなことしなければ、そうやって後悔することだってなかったのに」
リッタの言葉に後悔の意思を感じながらも怒りを抑えきれず、フォールは周りの者を置き去りにして叫んでいました。
「何の話だ。詳細を話してみよ」
そして、そんなフォールの様子を見た魔王は、二人の仲互いの理由について疑問を抱き、この国にたどり着くまでの概略を二人に話させるのでした。
ある程度話を聞いた後に、魔王は二人のこれまでの様子にある程度合点がいったように頷きました。
「どうりで邪神様を敵視するわけだ」
しかし、なぜリッタがあんなことをしたのか、その動機は分かりませんでした。
「それならば、何故その時だけ逃げ出した?」
「あのまま戦っていたら、一人か二人死ぬかもしれないって言われたからです。それにエルフだってことがバレてたら、危険だったかもしれなくって。だから、俺の判断でフォールを無理やり連れて逃げました」
「まるで自分にだけ責任があるかのように言うのだな」
リッタが何度も口にした言い訳を改めて語ると、魔王はその言葉に違和感を覚えました。そして、真意を探るための魔王の言葉に図星を突かれて、リッタは動揺した反応を見せす。
「違う、死ぬのが怖かったからだ」
「なるほど、本当の理由はその娘にあるのか」
「違う!」
「それじゃあ、本当の理由を言ってよ。納得できるような説明を」
追い詰められたリッタは、フォールの懇願を聞いて迷いに迷い、諦めたようにして静かに語り始めました。




