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「やっぱり私は助けたい!私はもう逃げ出さないって決めたの!」
戻ってくるなり開口一番にそう言ったフォールに、リッタは多少は驚きつつも、その言葉を予想していたために、あまり動揺した様子は見せませんでした。
「でも、駄目だ。逃げ出そう」
「なんでそんなこと言うの?」
「ルディも言ってただろ。一人か二人死ぬかもしれないって。だからここは一旦引いて、助けを呼ぶべきだと思う。それに、こんなにすんなり入れたことがおかしいんだ。もしかしたら、俺らも人じゃないことがバレてるのかもしれない。そうだったら、俺らもあの兄妹みたいな目にあうかもしれないんだ」
「違う。リッタはそんなこと言わない。…そんなのリッタじゃない!」
リッタの発言は筋が通っていて、正論だということは理解できても、フォールは納得がいきませんでした。
「リッタは、ちょっと抜けてるところがあったり、お馬鹿っぽいところもあるけど、誰よりも優しく、いざというときはとっても勇敢で、私の命の恩人なの!だから、リッタはあの子達を見捨てるはずない!」
感情を曝け出したフォールの叫びを聞いたリッタは、思いつめた表情をすると苦渋の選択をしました。
「ルディ、頼む」
「いつも、言っているだろうに。魔法は自然の摂理に反する故に好まぬとな」
リッタの言葉に従い行使された狼の超常の力によって、フォールの意識は暗転しました。
幼い兄妹を見捨てたリッタは、フォールを背負いながら村から抜け出そうとしていました。
「おや、もう出て行くのですか?せめて背負っている彼女が目覚めるまでは、ここに滞在して良いいのではありませんか?」
「大丈夫。ここに暮らす人たちを見て、少しでも早く貢献したいと思ってね」
「それは殊勝なことです」
村長の感心した様子に、自分達の正体がばれていないことを察して安堵をすると、一刻も早くその場を離れるために歩き出しました。
「お気をつけて」
「ありがとうございます。それでは」
後悔に苛まれ、罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、リッタは歩みを止めませんでした。
「ここは?…!降ろして!」
歩き始めてしばらく経って、目を覚ましたフォールは、リッタの背から飛び降りました。そして、慌てて周囲を見渡しましたが、そこはすでに見覚えのない道でした。果たしてここからどのように引き返せばよいのか、フォールが思案していると、リッタが声を発します。
「道に沿って歩いてきていないから、ここから戻るのは難しいと思う」
その言葉を聞いたフォールは、様々なことに対して憤りを覚えました。その対象は、幼い兄妹を殺そうとしている村人達で、リッタを説得できなかった自分で、無理やり連れ出したリッタで、そして何より邪神に対してでした。
しかし、その多くにはその怒りをぶつけることができない以上、自然とその矛先はリッタに向かうのでした。
「なんで、それなら、どうしてこんなことをしたの!?」
「一人か二人死ぬかもしれないって言われたからだよ。だから今は助けを呼ぶために大きな街を探してる」
フォールの怒りを受けてもなお、リッタは先ほどと大差ない答えを返しましたが、納得するはずもありませんでした。
「あんな小さな子供を見捨てて逃げるなんてありえない!あの子達を見捨てて、逃げてまで生きたかったの!?」
「ごめん」
「っ…。謝らないでよ。私は、…。約束、してたのに。助けるって」
「ごめん」
「どうして私は助けて、あの子達は助けてくれなかったの?…こんなことなら、あの時に死んでしまえてたら、こんな思いしなくてよかったのに…」
「それだけは、言わないでよ」
それっきり黙り込むと、会話は終わりました。
気まずい空気が流れ、目的地について話し合うはずもありません。
「…」
「…」
「ここより少し行った先に魔族が住む国があるのだが、行ってみるか?」
「魔王とやらを倒せば、あの子達みたいな境遇の子供はいなくなりますか?」
「いや、邪神教団と魔族は人類の敵という意味では同じだが、その二つの思想は異なっている」
「そうですか。それなら、別にどこでもいいですよ」
こうしてどこか投げやりに次の目的地も決まったところで、二人と一匹は歩き出しました。
二人と一匹の旅はもうすぐ終わります。




