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8-5

「やっぱり私は助けたい!私はもう逃げ出さないって決めたの!」

 戻ってくるなり開口一番にそう言ったフォールに、リッタは多少は驚きつつも、その言葉を予想していたために、あまり動揺した様子は見せませんでした。

「でも、駄目だ。逃げ出そう」

「なんでそんなこと言うの?」

「ルディも言ってただろ。一人か二人死ぬかもしれないって。だからここは一旦引いて、助けを呼ぶべきだと思う。それに、こんなにすんなり入れたことがおかしいんだ。もしかしたら、俺らも人じゃないことがバレてるのかもしれない。そうだったら、俺らもあの兄妹みたいな目にあうかもしれないんだ」

「違う。リッタはそんなこと言わない。…そんなのリッタじゃない!」

 リッタの発言は筋が通っていて、正論だということは理解できても、フォールは納得がいきませんでした。

「リッタは、ちょっと抜けてるところがあったり、お馬鹿っぽいところもあるけど、誰よりも優しく、いざというときはとっても勇敢で、私の命の恩人なの!だから、リッタはあの子達を見捨てるはずない!」

 感情を曝け出したフォールの叫びを聞いたリッタは、思いつめた表情をすると苦渋の選択をしました。

「ルディ、頼む」

「いつも、言っているだろうに。魔法は自然の摂理に反する故に好まぬとな」

 リッタの言葉に従い行使された狼の超常の力によって、フォールの意識は暗転しました。


 幼い兄妹を見捨てたリッタは、フォールを背負いながら村から抜け出そうとしていました。

「おや、もう出て行くのですか?せめて背負っている彼女が目覚めるまでは、ここに滞在して良いいのではありませんか?」

「大丈夫。ここに暮らす人たちを見て、少しでも早く貢献したいと思ってね」

「それは殊勝なことです」

 村長の感心した様子に、自分達の正体がばれていないことを察して安堵をすると、一刻も早くその場を離れるために歩き出しました。

「お気をつけて」

「ありがとうございます。それでは」

 後悔に苛まれ、罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、リッタは歩みを止めませんでした。


「ここは?…!降ろして!」

 歩き始めてしばらく経って、目を覚ましたフォールは、リッタの背から飛び降りました。そして、慌てて周囲を見渡しましたが、そこはすでに見覚えのない道でした。果たしてここからどのように引き返せばよいのか、フォールが思案していると、リッタが声を発します。

「道に沿って歩いてきていないから、ここから戻るのは難しいと思う」

 その言葉を聞いたフォールは、様々なことに対して憤りを覚えました。その対象は、幼い兄妹を殺そうとしている村人達で、リッタを説得できなかった自分で、無理やり連れ出したリッタで、そして何より邪神に対してでした。

 しかし、その多くにはその怒りをぶつけることができない以上、自然とその矛先はリッタに向かうのでした。

「なんで、それなら、どうしてこんなことをしたの!?」

「一人か二人死ぬかもしれないって言われたからだよ。だから今は助けを呼ぶために大きな街を探してる」

 フォールの怒りを受けてもなお、リッタは先ほどと大差ない答えを返しましたが、納得するはずもありませんでした。

「あんな小さな子供を見捨てて逃げるなんてありえない!あの子達を見捨てて、逃げてまで生きたかったの!?」

「ごめん」

「っ…。謝らないでよ。私は、…。約束、してたのに。助けるって」

「ごめん」

「どうして私は助けて、あの子達は助けてくれなかったの?…こんなことなら、あの時に死んでしまえてたら、こんな思いしなくてよかったのに…」

「それだけは、言わないでよ」

 それっきり黙り込むと、会話は終わりました。


 気まずい空気が流れ、目的地について話し合うはずもありません。

「…」

「…」

「ここより少し行った先に魔族が住む国があるのだが、行ってみるか?」

「魔王とやらを倒せば、あの子達みたいな境遇の子供はいなくなりますか?」

「いや、邪神教団と魔族は人類の敵という意味では同じだが、その二つの思想は異なっている」

「そうですか。それなら、別にどこでもいいですよ」

 こうしてどこか投げやりに次の目的地も決まったところで、二人と一匹は歩き出しました。

 二人と一匹の旅はもうすぐ終わります。

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