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「商人の方はこのあたりでは見かけない物を販売していました。つまり、他にも集落が存在しているのではありませんか?私達を騙そうとしていたのではありませんか?」
フォールの気付きに対して森の主が感心するかのように言いました。
「よく気が付いたな。閉じた世界に生きているにも関わらず、外の世界の可能性に思い至るか」
そして続けて出た言葉は、まるで敗北宣言だったのです。
「それがどうした、と言っても良いがこうも言いくるめられてしまっては威厳もない、我の負けだ。なかなかに面白かったぞ、当代の巫女よ」
その姿には、少なくとも今はフォールを食べる意志がないように見えました。
無事に二人は絶望的な状況を切り抜けることができたのです。そのおかげでフォールの未来のが広がり、生きる希望が生まれました。
「そこに行けば、私もまだ生きられるのですか?生きていいんですか?」
「我に聞くな」
「いいに決まっているだろ。よし、一緒にそこを探そう」
そんな様子のフォールに、森の主は興味を示さず、一方でリッタは躊躇をせずに付いて行こうとしていました。そのことに喜びを感じながらも、引っかかったフォールは質問をしました。
「リッタは家に帰らなくていいの?私と違って帰れるでしょ?」
言葉に罪悪感を滲ませながらフォールが質問をすると、リッタがゆっくりと返事をしました。
「俺の親父はさ、狩りの仕方は見て覚えろ、とか言ってろくに教えてくれなかったし、俺のおふくろはさ、部屋を散らかすといっつも怒るんだよ。けどさ、俺が初めてトナカイを狩ったとき、親父はくしゃくしゃーって頭撫でてくれたし、おふくろは俺の好物のキノコのシチューでお祝いしてくれたんだ。きっと俺は二人に愛されていたんだと思う。けれど、お前をここに連れてきたことは嫌だった。自分たちの平和のためにお前を犠牲にするなんてそんなの嫌だ。だから家出してやるんだよ」
その言葉には両親に対しての、家族だからこそ生まれる不満、感謝、尊敬、そして愛しているからこそ生まれる失望が込められていたのです。
「私のせいでごめんね」
「別に今生の別れじゃないし。いつか会いに行ってその時は文句を言ってやるつもりだから。大丈夫、心配しないでいいから」
「そうかな、ごめんね」自分のせいでリッタは二度と両親に会えないかもしれない。その罪悪感で思わずフォールは暗い顔をしてしまいました。
けれどそんな空気のままも嫌だったから、フォールは話題と空気を変えようとしました。「それで、どうやってその集落を探す?」
リッタはその話題転換に乗っかるように、厚顔無恥な態度で言いました。「それならさ、そこの狼が俺達を連れてってくれたら解決じゃん」
「ちょっと、そんなの失礼でしょ」
リッタの態度にフォールが焦りを見せていました。
しかし、それは丁度良い落としどころだったのかもしれません。
無様に言い負かされた森の主は先ほどの失態を帳消しにするために、逃げる場所が分からない二人にとっては案内役を得るために、これ以上なく双方にとって都合がよかったのです。
「別に構わぬ」
「よし、じゃあ早速新たな里に向けて出ぱーつ」
「里というよりは街や国だと思うがな」
こうして悪しき?土着信仰の対象である森の主を倒した?二人は帰る場所をなくし、新たな棲家、可能であれば終の棲家となる場所を探すための旅に出たのです。
このような経緯で旅、そして物語が始まったのです。
「今までは若い巫女しか食ろうてこなかったからな。気分転換に年を重ねた巫女も乙なものだろう」
どうやら前途多難な旅になりそうですね。