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その翌日、リッタの提案で二人は再びサクベエと鋤の助に会いに行っていました。
その目的は、サクベエの言葉の意味を確かめること。巻き込まれるとはどういうことであろうか、この村で争いが起ころうとしているのだろうか、と。
「ねえ、昨日の話って、偉い人達と戦うつもりだってこと?」
「…藩主様は未だに行動さ起こしてくれねえ」
リッタの質問に対するサクベエの返答からは、彼らの思いが伝わってきました。どれほど悩んでその結論に至ったのかを知らない二人が他の方法を考えても、良い案を思い付くことは出来ません。
「けれど多くの人を殺すかもしれないし、死ぬかもしれないことは怖くないの?」
リッタにとって戦うことは、殺し殺されること。未だに首を切り落とした感触が手に残っているリッタは、思い留まってもらえるように言葉を発しましたが、サクベエの決意は揺らぎませんでした。
「おめえ達、よく聞け。藩主様が行動に移してくれないせいでこの村は苦しんでいる。恨んでいる、というほど敵意を抱いているわけではねえが、藩主のせいで少なくない犠牲が出ている以上、責任を取らせるしかねえんだ」
「そう、なのかもね」
サクベエの意見を聞いたリッタは、強く言い返しませんでしたが、その言葉からは納得していないことが感じ取れました。
「納得がいかないのもわかるのさ。だけど、こいつにも理由ってもんがあるんだよ」
「おい!」
リッタの納得していない様子に思わず言葉を漏らしてしまった鋤を怒鳴りつけた後に、サクベエは一度大きくため息を吐くと仕方なく語り始めました。
「面白えもんじゃねえから言いたくなかったのに。おらはただ、親父の行動を伝えて、それが間違っていたのかどうかを藩主様に聞きてえんだ。食料がねえなら種を食えばよかったのに、来年のためだとか言って食わねかったせいで親父は餓死したんだ。それなのに村の奴らは親父の行動を正しいなんて言うんだ。だけど、おらはそうは思わねえ。だから藩主様に聞きに行くんだ」
その言葉には亡くなった父への怒り、肉親を亡くしたことへの悲しみが込められていました。
「その過程で自身や知人が亡くなることは、怖くないのですか?」
フォールにとって戦うことは、人が亡くなるかもしれないこと。自分自身が亡くなること、取り残される人のことを考えると、どうしようもなく怖くなってしまうのでした。
「一揆が原因で処罰されようとも、村の皆を守るためなら怖くはねえ。それにお袋も、オタキも仕方ねえことだって理解してくれるし、俺のことを誇りに思ってくれるし、悼んでくれる」
サクベエの悲壮な覚悟に、フォールはオドレイのことを思い出していました。
「残された側は、そんな簡単には割り切れません」
「他に道がねえことは、いつかわかってくれる」
しかし、フォールの最後の言葉も、サクベエの意志を揺るがすことは出来ませんでした。
「こんなこと言っても説得力がねえかもしれねえな。おめえ達は悪い部分ばっかり見たかもしれねえけど、この村には良いところも沢山ある。だから、おらはこの村のために命をかける覚悟があるんだ」
二人は意識していませんでしたが、この村もまた誰かにとって大切な暮らす場所。そんな当たり前の事実を、二人はサクベエの言葉によってようやく気が付きました。
「ごめん。余計な口出しだった」
「別に構わねえ」
自分達の立場でしかものを考えていなかった二人は、様々な立場があるという事実を失念していたことを反省し、しっかりとそのことを胸に刻むのでした。
「それに、命婦様がいらっしゃるのにこんなことになってるのはおかしいのさ。何かがきな臭いから、それを確かめにも行きたいのさ」
そして、意味深な鋤の助の言葉を最後に、会話は途切れるのでした。




