6-4
その日の夜のことでした、夜も更け眠りにつこうと思っていた二人の寝室に、レイラが突然やってきました。
「おい、お前達。話がある。まずは感謝を伝えたい。後継ぎのことでお悩みになられている若奥様は、とても辛そうで見ていられなかった。お前達のおかげで少しだけ気が楽になったように思われる。だから私からも感謝を伝えたい」
「どういたしまして」
「それで…。お前達は、いつまでこの街に滞在する気なんだ?」
驚く二人を無視して感謝を述べたと思いきや、レイラは言葉に罪悪感を滲ませながら滞在期間について聞いてきました。
嫌がられていることを察しながらも、なぜ自分達の滞在を嫌がるのか、その理由が分からない二人は正直に答えます。
「俺はこの街のこと結構気に入ったかも」
「私もです」
「そうか」
二人の返答は好意的なものだったからこそ、レイラ落胆を隠せませんでした。
「たとえそうだとしても、この国に住むことになってもせめてこの家から出て言ってはもらえないだろうか?」
レイラはそんな風に二人に出ていくようにお願いしました。そんなひどいお願いをされているのに、弱気な口調、後ろめたい表情で哀願されたら、二人とも責めようなんてことは思いませんでした。
「理由を訊ねてもいいですか?」
「私が若奥様と初めて会ったのはおよそ十年前、若旦那様が結婚相手を紹介したいと言って連れてきた時だった。当時は、屋敷の誰しもが二人の結婚に反対で、当然私も反対していた。若旦那様には後継ぎをおつくりになられる使命がおありになるのに、よりにもよって異種族と結婚するなど到底認められる話ではなかった。そのせいで若旦那様は勘当され、漁師になられた」
理由を聞かれたレイラは、思い出を懐かしみながらゆっくりと語り出しました。
「勘当されたとはいえど、当主様も奥様も若旦那様のことを心配なされて私が世話係として遣わされたのだ。正直、不満だった。若旦那様のお側に控えられるといえども、クラシベス様のことをよく知らなかった当時の私には、なぜ若旦那様がクラシベス様をお選びになったのか理解できなかった。だから、ひどい態度を取ったこともある。恥ずべき思い出だ」
思い出したくない思い出を苦しい表情で語ると、明るい表情に変わって大切な思い出について語りだしました。
「けれど一緒に暮らすうちにだんだんと彼女の魅力にほだされた。異なる種族の文化を理解しようとするひたむきさに、家の雰囲気を明るくする爛漫さに、ひどい態度を取った私にも明るく接してくれるその慈悲深さに、そのすべてに私は魅了されたんだ。家族がいない私にとって彼女は、妹のような、何よりも大切な存在になったんだ。それからのおよそ十年間は幸せだった。彼女の一番側に居られたから」
明るい表情で幸福だった日々の思い出を語ると、今度は複雑な表情に、喜びや恐怖を混在させた表情で語りました。
「けれど最近のクラシベス様は、お子様のことで気を病んでしまわれていた。だがそれもお前達のおかげで少しだけ立ち直られたように思われる。それは喜ばしいことだ、喜ばしいことだが、もしクラシベス様が一番頼りにする部下がお前になったら?今回のことでお前を重用するようになったら?私はそれが怖いんだ」
レイラの話を最後まで聞き届けたフォールは、追い出そうとしていることを責めるのではなく、大切な思い出を肯定するのでした。
「レイラさんとクラシベスさんは、時間をかけて家族になられたのですね」
「恐れ多いから口には出せない。だが、私はそう思っている」
「わかりました。それならば私達は近いうちに出ていきます」
「いいの?」
フォールがすんなりとお願いを聞いたことにリッタは驚きました。
「うん。けれど一つだけ言わせてもらいます。今の気持ちを正直に本人に伝えてあげてください」
「いや…。それは、恥ずかしくってできない」
「言い訳しちゃだめです。言葉が足りないからクラシベスさんは苦しんでいたのですよ。レイラさんとクラシベスさんがそうだったように、いずれ来るお子さんとだって家族になれるって言ってあげればよかったのに」
「それは、そうだが。…できるだけ、努力をしてみる。それから、無理なお願いを聞いてもらって申し訳ない」
最後のお願いに気が進まない態度を取りながらも、フォールのおかげで少しだけすっきりとした表情になったレイラは、謝罪の言葉を吐くと去っていきました。




